スループット最大化を中心とした評価設計を考える

2018年、10X社は少しずつ人を増やしながらチームを構築してきた。現在はフルタイムで5名という陣容で、数名の内定者がいる。1年前と比較すると3倍ではあるが、それでもスタートアップという雑な括りで見るとゆっくりとした人数推移かな、と思う。

「人が欲しがるもの」「レバレッジする方法」を発明するチームをどう創るか。プロダクトに驚異の集中力を持つカルチャーを創りたいという意志は、はじめから一貫している。

「もの」と「トラフィック」を発明する上でキーとなるのは、創造する力と工学する力だと思う。これをざっくりと「クリエイターの力」と定義している(工学もクリエイティブだと思っている)。そして目指すチームにおける経営の役割は「クリエイターがチームで弾き出すスループットを最大化する」ことに集約される。

単位時間あたりのスループットは「スピード」とも呼ばれる。スピードが重要というのは当たり前で、採用においてもチームの設計においても「スループット ≒ スピードを最大化できるか?」という論点を自らに課している。

今後チームを拡大していくにあたり、最優先は「カルチャーや僕らが創ろうとする未来へ共感する人を巻き込んでいくこと」なのは間違いない。スキルやタイミングの合う人ぜひにチームへ加わってもらいたい(気になる方は こちら)。

他方でジョインしてくれたメンバーがきちんと化学反応し、時折うねる方針に対応しながらもスループットを最大化するにはどういった仕組みを設計すべきなのだろう and/or できるのだろうか。 直近、僕の頭を専有するこの目下の関心事について考えてみた。

評価のWHY

どのチームにも「評価制度」はつきものだが、改めてなぜ評価が必要なのだろうか。小さなチームである今の自分達にとっては以下の2点だと考える。

  1. フィードバック: 個々の業務やふるまいを「自ら/他者から」見直す機会を設け、「スループットが最大化する方向に」フィードバックをかけるため
  2. 報酬: 会社と個人の関係性の中で、「納得の行く報酬ライン」を見出し、お互いスループットに集中するため

この2つの目的についてそれぞれ切り分けて考える。

1 / フィードバック

結論、スループットの最大化という目的においては「フィードバックは細かければ細かいほど良い」「報酬の議論と区別して行うべき」と考えている。

例えば多くの大企業で採用される「四半期に一度の面談」はスパンが長過ぎる。3ヶ月前に何を考え、何を実施し、その結果がどうだったかを思い出す作業は誰にとってもコストが高い。

「スループットを最大化」するために必要なのは以下のような状態ではないだろうか?

OKRやMBOといった制度の下で四半期面談を行うとき、3ヶ月前のアクションについて指摘が行われたりすると「なぜ今?」と困惑した記憶もある。

これはおそらく「報酬の議論」のための指摘も含んだものだったのだが、「フィードバック」としてはあまりに遅く、スループットを最大化するには時すでに遅しだった。いまどちらの意図で評価がされているのか、明確に切り分けたほうが良いだろう。

なお、10Xでは大きく3つの粒度で「フィードバック」が回るようにしている。

また、あらゆる議論過程・フィードバックは文字化されていないと情報が属人化し、スループットに寄与しない。これは「無い」に等しいと思っているので、社内では「ドキュメントにして共有すること」を口酸っぱく伝えるおじさんの役割を担っている。

2 / 報酬の議論

こちらは1のフィードバックよりずっと設計が難しい。そもそも「納得のいく報酬を考えるにあたり検討すべきジレンマ」は複数あり(以下、例)、それぞれが極めて難しい問いで、かつ、複雑に絡み合っている。10Xでは主に以下の3つについて検討し、報酬ラインを設計している。

a. キャッシュフロー vs バーンレートキャップ
b. 市場価値 vs パフォーマンス価値
c. その人にとって必要な金額 vs 会社にとって払える現実的な金額
etc…

a, b, cについてそれぞれ補足する。

a.キャッシュフロー vs バーンレートキャップ

メンバーへの報酬は会社の保有する・生み出す原資の中から行われ、原資が小さい限り報酬のキャップは大きくできない。そのバランスと、将来的な見通しの中から報酬を設計する必要がある。 資金調達はキャッシュフローが生まれるまでの間、この点をサポートする原資となるが、どこかのタイミングで大きなフリーキャッシュフローが生み出すことはマストだ。 「最高の人材達に、適切な報酬を」と思ったなら、大きなマーケットで、複雑な問題にリスクを持ってトライすることが企業の最低ラインとなる。カキン王国やハンターが原資を目的に暗黒大陸を目指すのと同じように。

バランスの象徴。ネテロ。

原資を増やし続けること。すなわち、永続的にキャッシュフローを上げ、バーンレートを上げていくには「マーケットの選定とそこでのエグゼキューション」に終始する。「あなたは大きなマーケットにチャレンジしますか?」という問いへの答えがこの対立項にキャップを嵌める。 そしてこれは会社と従業員の関係ではなく、経営者の中で完結する問 であり、ここに「視座」が求められているホイな。

リスクの象徴。カキン王

なお、経営者が大きなチャレンジを決めた場合、この論点は視座より一歩踏み込んで、キャッシュフローを大きくするまでのファイナンスと事業ステップを設計できるか、という論点に落としこめる。 10Xでは「大きなマーケットで、10xな発明をして、大きなビジネスをしよう」と方針を明確にしている。細かな評価でなく、原資を獲得し、メンバーの報酬のアップしていきたいと考えている。

b. 市場価値 vs パフォーマンス価値

「市場価値と、自社で仕事をした場合のパフォーマンス価値を見積もり、双方から適正な報酬を設計する」というアプローチは、正当性が高いように見えて「価値の見積もり」が事実上不可能であるところに困難さがある。現在の10Xは、報酬設計にこの観点を積極的に組み込むことはしていない。 市場価値は「年俸」として形成されている。およそ自身の価値が「市場 = 他社の評価額の集合」だとどのあたりに位置するのか、というのは把握しやすい。

他方で、それは表面的なものでしかなく、本来の価値は「その人がいることによって生み出されるスループットの価値はいくらか」というパフォーマンスを評価・見積もることで算出されるべきだと考えている。

このパフォーマンス価値は、セールスやトレーダーなどの「金額で表現できる仕事」以外ではほとんど算出が不可能だ。たとえば転職市場ではX円のオファーを獲得できる人材が、

という2点の不確実性を常に孕んでいる。測れないものは測れない。

これは企業側、社員側両者にとって不安なポイントであり、だからこそ無思考に「前職給」や「市場でのオファー価格」を受け入れるのは逆に相互の納得感を醸成しにくいのではないか。 10Xはカルチャーもスキルも満足でき、その上で社会に大きな変化を、成果を残そうという人を採用し続けたいという意志がある(現にそうなっている)。

現メンバーも「成果が出したいから会社に来ている」わけで(現にSelf Drivenで仕事を進めてくれるメンバーしかいない)、それを無理くり評価するより、「報酬のためのパフォーマンス評価を当面はしない、未踏を舐り大きな報酬を一緒に得よう」という割り切ったスタンスをとっている。あえて市場価値を照らしたり、パフォーマンスを評価して給与を変えるという設計をとっていない。 (もちろんこの観点は組織フェーズの遷移によって大きく変わるポイントであるとも思っている。あくまで現在の考えとして留めておきたい。)

c. その人にとって必要な金額 vs 会社にとって払える現実的な金額

会社にとって払える金額はaにあるとおり原資に依存する。 他方で「個々に必要な金額」というのは住む場所やライフスタイルに影響を受けるものの、よりコントロールが難しい「世帯の環境」に大きく依存する面がある。例えば扶養する家族の有無によって、気持ちや時間のバッファを設けるためのキャッシュ必要量は大きく変わる。このことは家庭で二児の父を務める自分自身がよくわかっているつもりだ。

スタートアップとはいえ「都内で一般的な生活が十分可能な金額」というのは最低ラインで提供したいと考えている。だが、これだけでは当初の目的であるスループットの最大化には充分と思っていない。 例えば、小さな子どもは頻繁に、突発的に熱を出す。親が仕事を休んで対処しなくてはいけないケースも多々ある。そのときに有給を気持ちよく利用してもらうのはもちろんだが、個人では高額で手が出しにくい月数万~10万円ほどの「病児保育サービス」を利用して、「スループットのための時間を増やす」という選択肢を提示できるのがベターではないか。

世帯と仕事をどうバランスするか、は個人の選択を尊重する。しかし、「子供がいるからなどの世帯理由により制約がうまれ、それを解消する手段がない」というのはスループットに制限をかけてしまう要素であり、それを取り払うことを報酬設計の内側に織り込んでおきたいと考えている。 (これはまだ検討段階だが、早く具体的な施策として実現したい)

10Xの現状とこれから

上記のような思考を経て、現在は以下に示すような形で報酬制度が運用されている。

評価設計や報酬設計は組織の状態に応じて生き物のように変わるべきもので、まさに僕が大好きなプロダクトそのものだと考えている。

夢やビジョンは大事だが、ナマモノで、それだけでは人は走れない。過去にNPOというまさに夢の塊のような場所で仕事をしていた自分にはこのことが原体験として染み付いている。

現実的で相互に納得の行く評価・報酬設計こそ、長期的にスループットを最大化するためのマストだと思っており、プロダクトと両輪で回転させ続けたい。