ストラテジーと実装の一致

本稿は先日ツイートした「スタートアップの本当の強みは意思決定の早さではなく、ストラテジーと実装の一致」について、掘り下げ、補足したものになる。

意思決定の早さが命、の正体は?

スタートアップにおいて「意思決定の早さが命」というのは一つの定説として語られるが、早さが命 = 同じ精度であれば早いほうが良い」と捉えるのは危険。
スタートアップの存在価値は「産業の未来を構築すること」。産業が現時点でその未来に到達できていない理由は明白で、産業内に複数のトレードオフが存在するから
例えば金融機関や個人間でのシームレス・低価格な送金を阻んでいるのは規制、中央システム、行動心理などに複数のトレードオフが存在するからだ。
個人的には給与や経費送金の都度、メインバンクに800円近い手数料を都度徴収されるのがなかなか重く辛い
自分の中で意思決定において最も意識するのは - 「現時点で出せる最高品質の意思決定を最速でポンポン行うこと」ではなく、 - 「複数のトレードオフを同時に解決するために、許す限りのリソースでイシューを叩き、幅を持ちながら意思を練り上げること」だ。
不確実性を潰しながら、方向性を正していくこと。これだけが早さにつながると思っている。
ユーザーに良いが稼げない、稼げるが産業にプラスはない、ではなくユーザーにも産業にもキャッシュフローにもポジティブである意思決定をするにはどうすればよいか。そこにある不確実性をどう処理していくか。

意思決定の早さはなぜ生まれるか

早さが生まれる理由は「ストラテジーと実装が一致しているから」だと考えている。逆に言うと、これらが一致していない場合、早さは生まれない。
正しい戦略が、組織や技術的負債のために実行されなければバツ。逆に素晴らしいテクノロジーを扱えるチームがあったとしても、間違った戦略で活用してもバツ。
スタートアップの唯一の強みは「なにもないところから始められるが故に、ストラテジーと実装を一致させやすい」という点にある。
大企業のようにすでに事業や組織が出来上がっていると、何かを転換する際に痛みを伴い、動きにくい。放置すると乖離が起き、早さを失う。
ストラテジーと実装が一致しているケースでのみ、トレードオフの解決に正しく向かえる。正しい方向性だけが早さである。

最も難しいのは戦略と実装の乖離 = 負債

初めはストラテジーと実装が一致していたとしても、事業は進める毎に「わかっていること」が増え、大小様々な転換を迫られる。ストラテジー、実装の両方に同時に。
数名で始めた時点で「最高のストラテジーとプロダクト」であったとしても、成長する限り乖離は必ず起きる。リリースと乖離が置きた瞬間に負債に置き換わる。この負債をどう処理していくかによって、到達点が大きく変わると考えている。
下は放置し、正しい方向性へ向かうことが難しくなる。早さを失う 中は負債を都度処理し、早さを保とうとする 上は負債を予見し、初期の設計の中に予防を組み込む
どれだけ未来の解像度を高めて意思決定を練り上げられるかによって、取れる選択肢自体が変わってくる。ストラテジーと実装を一致させようとする力をかけ続けなければ、我々スタートアップは存在価値自体を失う。

まとめ: プロダクトマネジメントが必要な理由

いわゆるプロダクトマネジメントは「ストラテジーと実装の一致状態を継続させる」という機能なのだと思う。狙うマーケットが変わったり、ストラテジーが変わればプロダクトが変わる必要がある。プロダクトの原動力は人なので、人に納得性を植え付けるか、人を替える必要がある。
ストラテジーに応じて兵站を替え、兵站を活用してプロダクトを実装し、そのフィードバックをストラテジーに与えていく。その中間を担う経営者を、自分はプロダクトマネージャーと呼ぶ。