「生協」の存在感とEC移行の現状
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「生協」の存在感とEC移行の現状

本稿は小売について考えるシリーズの第4部として、日本において巨大インフラとして社会に根ざしているにも関わらずその実態があまり正確に知られていない「生協」についてリサーチし、まとめたものである。特にその組織体制や、ECへの取り組みは今後の食インフラにおいても生協が大きな役割を果たし続けるのか、という論点について考えるときの助けになるのではないかと考えている。

「生協」という言葉については、誰でもご存知なのではないだろうか。あの分厚いカタログが家にドンと置かれ、そこからチェックシートを使って注文する、というあの生協である。もしくは団地へ毎週トラックがやってきて、ご近所さんとお買い物を済ます、という記憶が強い方も多いかもしれない。

国内であればだいたいどこのの町に行っても ー それがたとえ片田舎であっても ー 生協のトラックを目にすることができる。本州最北端に位置する僕の実家・青森であっても。

しかし実際に生協がどういった規模の事業者であるのか、事業を支える基盤はどうなっているのか、組織体はどうなっているのか、そしてデジタル時代に置いてどういう存在になるのかといった、ビジネスサイドから見た生協を正確に理解するのは非常に難しい。これがこの記事の背景となっている。

例えばIGDが発表した「Leading global online grocery markets to create a $227bn growth opportunity by 2023」にも日本の生協は誤った形で参入され(流通額が全額オンラインとして参入されていると思われる)、その把握が難しいことが推測できる。

生協は「消費者の互助団体」としてスタート

日本における生協は企業とは異なり、生活者が自ら出資し、自ら運営し、自ら利用するというあくまで「消費者の団体」としてスタートした。その形は現在に至るまで少しずつ変遷しつつあるものの*、基本的に変わっていない。

※生協が出資金を利用して株式会社を設立する、という事例がある。

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生協の事業は購買生協(供給事業)が基幹であり、この他に共済事業や医療事業、保養所や施設などの利用事業を行う生協団体もある。

また生協にはその出自に応じていくつか分け方がある。上記のように業態(事業内容)でわける以外には“地域生協”、“職域生協”、“大学生協” という、団体の括りで区別するものも存在する。

今回の記事では特に「食のインフラ」を担う 「購買生協(供給事業)かつ地域生協」について触れる。

なおリサーチに当たりさまざまな資料・集計を目にしたが(参考資料欄)、「その集計がどの生協のどのセグメントについて語られているか」が暗黙的なケースがほとんど。おそらく内部でも正確な管理が難しいのだと思う。それ故に本記事に掲載する数値についても「大局観を掴むための概数」であり、必ずしも正確な数字ではないことはお断りしたい。

購買生協は日本最大の食品配送事業者

購買生協は組合員へ対し主に”食品”を中心に販売を行う事業である。以下は2004年のデータだが、事業総額の71%が食品で占められている。

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購買事業には大きく2つのセグメントがある。「店舗事業」と「宅配事業」だ。さらに宅配事業の中には「個宅配」と「班宅配」の2種類が存在する。

個宅配はイメージ通り各世帯へ直接配送するモデルであるが、班宅配は組合員が組織する「班 = 集合住宅などの単位で組成」へ決められた時間にトラックが回遊し、まとめて周囲の世帯への配送をするモデルだ。近代では中国のpinduoduoのようなソーシャルコマースの先駆けとも言える。

そして購買生協の年間取扱高は2.7兆円(2018年度)であり、日本最大の食品小売であるイオンリテールの取り扱い額約2.2兆円を超え日本最大である。

取扱高の内訳(セグメント)は店舗0.9兆円、個配1.3兆円、班配0.5兆円となる。以下は2002年-2011年までの個配・班配の推移であるが、班配のシェアが個配へ移動しているとも読める。「班から個へ」がトレンドだったと言えよう。

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多層・独立型の組織ガバナンス

生協を理解する上で最も難しいのがガバナンスの理解だ。

本社機能

おそらく「生協の本社」に近いと言えるのは日本生活協同組合連合会(日本生協連)ではないかと考える。役員には各地域生協や事業連合の理事がずらりと並ぶ。

日本生協連は組織図が公開されており、大企業の組織図と類似している。主にブランディング、商品MD、通販、ロジスティクスサポートなどの各生協のオペレーション支援の機能をもつ本社、という理解でおよそあっているのではないだろうか。

事業連合

その次のレイヤーと言えるのが『事業連合』である。現在12の事業連合が存在し、「エリア」もしくは「イデオロギー」のいずれかで事業連合を組成しているようである。

事業連合は複数生協が共同事業(商品の開発や仕入れ、宅配カタログの制作など)を進めるための組織である。日本生協連は、その全国連合会というイメージ。全国連合会は、事業体ごとに存在し、共済や大学生協、医療福祉などの団体が別にある。

所管

生協の所管は県内のみの場合は各都道府県、連合会は地域厚生局、ただし複数の厚生地域にまたがる連合会の場合は厚生労働大臣となる。ゆえに生協についての概略的なレポートは厚生労働省のWebサイトにまとまっているものの、厚生労働省が全てのデータを収集できているわけではないというジレンマがある。

関連組織

日本生協連の各本部傘下にCO-OP情報システムCXカーゴ (物流)といった子会社が存在する。日本生協連が100%株主として出資し、各事業連合へ対したとえばECシステムや、物流トラックなどを提供して事業支援を行う。子会社の役員陣は日本生協連からの出向者が多い。

EC化の実態 - 宅配事業流通額ベースの17%

2018年の宅配事業の流通額は1.8兆円に対し、EC経由は3,181億円であり、YoY7-10%ほどで着実に成長している。EC化率はおよそ18%となる。購買事業全体で見ると分母は2.7兆円となり、EC化率はおよそ10%ほど。

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また登録会員数は375万名に対し、週次の平均購入者は118万人と、登録後の利用率が極めて高い状態にある。

インターネットの活用はECの他にもう一つ柱があり、利用者を増やす、という点にも活用が進んでいる。たとえば「Web経由での資料請求」。

全国103生協が共 同で取り組む、「生協の宅配はじめませんか」サイトから、各生協の宅配加入資料請求への誘導数は、48.1万 件(2018年度累計実績、前年比124%)、配食事業の加入資料請求への誘導数は、9.9万件(2018年度累計実績、 前年比113%)の実績となっています。

この他にも現在は「人による訪問確認」が必要な利用開始手続きに対してもインターネットは活用されつつあり、宅配の利用手続きをオンラインで完結できる生協も増えているとのこと(2018年度末までに、72生協、全体の約15%)。

ただ問題としてはこういった課題解決に必ずしも全国生協連が提供しているシステムが活用されているわけではないことが挙がってきているらしい。

僕が個人で事業連合の方にヒアリングを行ったところ、システムが使い勝手がわるく、資本体力のある事業連合は個別にアプリやWebを開発しており、断片化が進んでいるようだ。

事業連合ごとの流通額比較とエリア内でのシェア

以下に11の事業連合と、Coopさっぽろの数値をまとめた。

※筆者集計
※筆者集計

事業連合単位でもエリアシェアを争うライバルとなることも多く、そのため事業連合の敵は事業連合、と言われることがよくあるらしい。

※なおCoopさっぽろは過去に9の単協が乱立していたが、現代表のリーダーシップのもとで一つの生協にまとめ上げ、エリア全体をカバーしつつ日本で最もスピーディーに様々な施策を投じる異例の存在となっている。

また各地域における「食品小売市場に占める生協のシェア」をまとめたのが以下だ。

※筆者集計
※筆者集計

特に先程「異例」として挙げた北海道ではなんと11%ものシェアをCoopさっぽろが単独で保有する。他方で東海地方ではシェアが3.6%に留まるなど、エリアごとに生協の存在感は約3xほどの差があることがわかる。

他のカタログ通販のデジタル化はうまくいっているのか?

生協は「紙媒体から商品を選び、予約し、1週間後に届く」というユーザー体験から、カタログ通販として捉えるのが正しい。そこで他のカテゴリーの「カタログ通販」がどのようにEC化をすすめているのかをざっと調べたものの、多くは苦戦しつつも次の姿を見出しつつあるようだった。このセクションでは特に日本有数の総合通販会社である千趣会(ベルメゾン)について触れる。

千趣会は “Women Smile Company” を標榜し、比較的狭いターゲットに絞ったアパレルのカタログ通販を展開してきた。そこでの囲い込みには成功しているものの、会社全体の業績はさほどよくない状況である。

EC独自基盤を保有し、EC化率は上がっているが、それは『注文端末』としての利用が多いと推察される。カタログを見て、注文だけはECで型番を打つ、という使い方。商品開発のサイクルやスピードがECの時代にシフトしておらず(遅い、カタログ発行速度に依存)、専業ECの商品開発サイクルのスピードに達していない。

2017年に掲げた中期経営計画では外部環境の厳しさを指摘しつつ、ECシフトを表明していた。

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その答え合わせとなる2019年の通期決算を確認すると、ECについては楽天やAmazonなど「既存プラットフォームへの出店加速」へと方針転換。つまり、苦手な独自の基盤構築、運用、顧客開発は得意なプレイヤーに預け、自社は在庫オペレーション・ブランディングに集中してきた。またトップライン至上主義を捨て、収益体質を取り戻すことに成功している。

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2017年の記事を読むと、この頃の危機感と意思決定が良い方向に動いた結果とも捉えられる。

  • 減収を覚悟で過去最大のカタログ部数削減に着手する
  • 1年近く前に企画を固め、自社で在庫を抱えて販売するというカタログのビジネスモデルは将来が見通せない」(同)として縮小する方針で、カタログを好むユーザーには、よりスペシャリティの高い媒体に絞って展開することでレスポンス率を高める方針
  • ネット受注件数比率が通期で初めて80%を超えたものの、カタログ依存の体質が抜け切れていないため、「ネット企業らしい業務フローにできるだけ早く切り替える」必要性を示唆

生協の今後

ベルメゾンなどのアパレルを中心としたカタログ通販比較すると生協は外部環境からのプレッシャーはかなり低い状況だった。他方でユーザー層の高齢化、若年層がネットスーパーへ流れてるなどの潮流が起き始めている。

その流れは直近のコロナショックで加速していると言われており、Google トレンドでは初めて検索トレンドが逆転するという大きなモーメントも確認できる。

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スマホに慣れ親しんだ若年層が、結婚や出産などのライフステージの変化を迎えたときの純粋想起が生協からネットスーパーへ移り変わったとき、生協はどんなDXが求められるのか。個人としても、10X社としても注目している(了)。

※本稿は友人であり10X社のエンジェル投資家である @hik0107 と2年前に一緒に行ったリサーチがベースとなっています。いつもありがとうございます。彼とやっているPodcast「フリーアジェンダ」もよろしくお願いします。

PS.

生協(コロナショックの現場から:外出自粛で宅配サービス大忙し 東都生協「注文多過ぎて異常事態です」 毎日新聞)もネットスーパー(ネットスーパーで相次ぐ遅配・注文停止、コロナ影響で殺到 | 通販通信ECMO)も、かつてない需要の増加のもとで現場は大きな混乱のなかオペレーションを回されているようです。こんな状況でも当たり前に商品が届くことに感謝しつつ、リスクの中インフラを提供されている皆様へあらためて敬意を示したいと思います。

参照