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Notionを使ったドキュメントシステムを構築する

10X社でNotion というドキュメントツールを使い始めて1年が経ちました。導入以降、会社のドキュメントを通じたコミュニケーションはさらに良くなったと感じており、今ではこのプライベートのWebサイトもNotionからホストするようになりました。
 
そんな中、「How to use Notion (どうやって使うか) 」についての情報は世の中に十分に流通している一方、「Why Notion (なぜNotionでなくてはいけないのか) 」については情報が不足していると感じており、自分の経験から言語化を試みました。そしてNotionの価値を語るには「ドキュメントシステムはどうあるべきか」を考える必要があり、考察を記載しています。
 
あわせてNotionというシステムの自社での使い方、活躍しているシーンやユースケース、逆にNotion が苦手なところ(改善を希望するところ)を記載します。

Notion以前に活用していたDropbox Paper

Notion を会社に導入したのは2019年12月でちょうど1年になります。それ以前はDropbox paper というツールを会社のドキュメントシステムに採用していました。詳細については以下の記事にも詳しく記載しています。
 
今振り返ってもDropbox paper の最大の美点は書きやすさです。
1つ1つのエンドページ、1枚1枚の紙に文字を書いていく作業がものすごく気持ちよく、そして綺麗なインターフェースに仕上がります。フォントやマージンなど、あらゆるところで書きやすさにこだわりが感じられるツールです。
 
特に現在の多くの仕事のアウトプットは、多くがドキュメントであると思います。例えば、契約書、利用規約、プロダクトの仕様書など、いろんなものを文字に起こして、人と共有したり、考えをすり合わせたり、議論のたたき台にしたり、コミュニケーションを取りながら「手には取れない最終的な成果物」を作っていく。
 
そのために具体的に行う作業としては、文字をキーボードで打つわけです。だから書きやすさは非常に重要な要素の1つです。

ドキュメンテーションの価値が決まる3つの軸

「書きやすさ」というのは重要な要素である反面、ドキュメントが創られ、流通し、利用されるというシステム全体を捉えたときには部分に過ぎないというのも事実です。
このドキュメントシステムは大きく3つの要素に分解でき、その3つの要素の積分が価値であると考えています。一つ目は「情報ストックの量」、二つ目は「エンドページの品質」、三つ目は、「アプローチのしやすさ」です。
 
Dropbox paperは「エンドページの品質」(情報の書きやすさ、読みやすさ、美しさ、情報摂取効率)に特化したツールです。しかし、それ以外の2つの面では問題を抱えていました。尖っていて、いまでも愛おしい。だけどNotion はドキュメントシステムとしての価値でDropbox paperを凌駕したのです。
 
もちろんNotion以外にもいろんなツールを検証しました。ConfluenceKibelaCrowiQiita:TeamDocbase などです。これらを一通り自分で試した上で、3要素の積分の値が一番大きくなるのは何か考え、Notionを選択しました。
 
なお、移行に四苦八苦している様子がTwitterに残っています。
 
 

要素1. 情報のストック力 = 情報の再利用性を高める

チームで経済活動を進めていくと、様々なチャネルで情報を流通させるため、情報が分散しやすい状況にあります。Slack、メール、電話、会話、会議、ホワイトボード、エクセル等々。こういう情報を束ねて、品質の高い情報に練磨し、再利用が可能な資産に転換していくことは極めて重要なイシューになります。
 
10Xではこの情報の再利用性を高めることを「オープン」と定義しています。以下の記事も参照してみてください。
 
例えば、多くの会社では内部コミュニケーションをSlackやTeamsなどのチャットツールへ移行しており、そこでは数万、数億といったログがデイリーで流れています。こうした膨大なデータから特定の会話を検索で拾い上げるには高い検索スキルが必要で、再利用性が低いといえます。同じように口頭での雑談、電話での伝達なども文字に残さない限り再利用性が低いですよね。
 
他にも、ドキュメントツールではテキストを扱うけど、何かを比較するときにはスプレッドシートを立ち上げる、タスク管理を行うときはカンバンツールを立ち上げる、といった蓄積先の分散も再利用性の低さに繋がると思っています。
 
この再利用性を高めるために重要なのは、「なんでもドキュメントに表現できる」という表現の広さであり、Notionはこの点で非常に優れています。例えば以下のGifを見ていただくのが早いと思います。ここまで柔軟性が高いドキュメントツールは見たことがないレベルです。
 
表現の幅が広い → 様々な情報を集約できる → 蓄積される情報量が増える。これがNotionがドキュメントシステムとして優れている1つ目のポイントです。

要素2. エンドページの品質 = 情報摂取効率を高める

2つめの要素は「エンドページ単位の品質」つまり「読みやすさ・書きやすさ」です。読みやすさは1枚のドキュメントからの情報摂取効率を左右します。
 
例えばnote はクリエイターの創作をサポートするメディアプラットフォームがあります。noteは意図的にゆとりのあるUIを提供しており、特にスマートフォンにおいてエッセイやポエムのような「人の想い」が読みやすくなるよう設計されています。
 
これに対しNotion は仕事のためのワークスペースというポジションであり、業務利用に特化しています。Notionにはブロックという概念があり、それが特徴でもあり厄介でもあります。 (余談ですがNotionに馴染めるかどうかはこのブロックを受け入れられるかどうか、に大きく依存していると感じます。)
 
Notionでは1行1行の単位をブロックと呼びます。Notionはすべてブロックでできています。そしてこのブロックを要素1で紹介した「いろんなもの」に転換できるのです。以下はブロックについての公式の解説になります。
 
このブロックの扱いがうまくなると、エンドページ自体の品質をグッと高めることができ、Dropbox paperを超えうる品質を実現することができます。
 
他方で問題は「書きやすさ」にあります。このブロックを使いこなすには相応の学習が必要です(自分も苦労しました)。たとえばWordしか使ったことがない人がいきなりNotionを利用するのはかなり困難であると断言できるほど操作性に大きな違いがあり、エントリーハードルがとても高いのです。
 
Notionビギナー時代には思わずひどい言葉を投げかけていました(反省しています。今は慣れて使いこなせています。一方でNotionにとっては永久の課題だと思っています)。

要素3. アプローチをしやすさ = 情報への到達のしやすさ

最後はNotionへ日々蓄積していく情報への「アプローチのしやすさ」をどうやって生み出すかという点です。
 
Notionは階層構築の自由度が圧倒的に高いです。自由度の高さはエントロピーの増大を招き(煩雑な状況を生みだしやすい)、規律をもって使わないと結果的に階層や分岐が際限なく増えていく傾向があります。こういった状況に一度陥ると、「情報はあるはずだがどこにあるかわからない。情報を取り出すコストが高い」という問題が発生します。しかしながらこの状況を先見して回避するには、Notionというツールを使うときの「規律」を定義・浸透する必要があり、それはユーザーに委ねられています。
 
以下は10Xの例です。この分岐をできるだけ最小化するためにNotionの使い方ガイドを定め、トップレベルの階層については経営陣以外がタッチしない、そして定期的なクリーニングを行うなどの工夫を行っています。自分を含めた創業者がもとよりドキュメントシステムの構築に拘りをもっていたため、比較的うまく運用ができていますが、これをリテラシーが低いユーザーが実行するのはかなり難しいだろうな、とも感じます。
 
WORKSPACEのトップレベルは5つにメンテされていて、はじめにJOINした方が迷わないような順序で配置しています。一番はじめのに「How to work」というオンボーディング資料を設置することで、Notionジョイン直後に読んでもらえるよう工夫をしています。
WORKSPACEのトップレベルは5つにメンテされていて、はじめにJOINした方が迷わないような順序で配置しています。一番はじめのに「How to work」というオンボーディング資料を設置することで、Notionジョイン直後に読んでもらえるよう工夫をしています。
Notionは極めて「ソフトウェア的」なプロダクトです。プロダクト開発のようにドキュメントシステムを構築していく人にとっては「アプローチを最短化する」ことが実現できるツールです。本当に素晴らしいし、使い込むにつれてこの価値は何倍にも上がっていきます。他方で、何も知らない人にはアプローチをうまくつくるのが難しい、というのが率直な感想です。

ステークホルダーと利用するNotion Practice

Notionの社内的なベストプラクティスを1つほど紹介します。

パートナーとのスムーズに連携できる「外部シェア機能 + Slack通知」

1つ特徴的なNotionの機能で、社内で大活躍しているのが、「外部シェア機能」です。
例えば、ある階層のあるページを「プロジェクトボード」として外部パートナーとシェアをして、そこをコミュニケーションの場にする、といった使い方をしています。加えてNotionをSlackにリンクさせて、そのプロジェクトボードになにかの変更が入ったときは10XのSlackへ通知されるような環境を構築します。
プロジェクトボードページの例。
プロジェクトボードページの例。
Notionからの通知例。パートナーがプロジェクトボードに何かを記載してくれたときにも通知で気づくことができます。
Notionからの通知例。パートナーがプロジェクトボードに何かを記載してくれたときにも通知で気づくことができます。
 
これに加えてパートナーからのメールはZapierを使ってSlackの特定のチャネルに通知するようにしており、以下のような状況が生まれ、とても生産的だと感じています。
  • パートナーとの共有すべきドキュメントを1箇所に蓄積できる
  • 細やかな権限管理ができる
  • パートナーがドキュメントへアップデートしてくれたことにすぐ気付ける
  • 10Xもパートナーも通知を受け取るインターフェースを選べる。これによって「確認する場所を集約できる ≒ アプローチをよくできる」
こういった形でNotionをコミュニケーションのハブにする方法がプロジェクトマネジメント上でうまくワークしています。

まとめ

ドキュメントシステムにおける3要素の積分値を最大化するという意味ではNotionは非常に強力です。反面、ブロックという概念の学習や、ブロックの扱いに草による書きやすさの部分では多いな学習コストを必要とするのがNotionの特徴だと捉えています。この特徴を自分たちが理想とするドキュメントシステムに当てはめながら検討してすると良いなと思います。
 
ただNotionは本当に開発速度や機能の充実では他の追随を許さないレベルになってきていると思います。例えば10Xのようなセキュリティに投資な必要な企業にとっても、SSOがスッと導入できるようになっていたり、毎週のように機能のアップデートがメールで通知されます。まさにProduct led growthを体現した会社です。
 
キャッシュリッチな体質とあいまって、「長い間信頼して使えるツールを選ぶ」という観点では最も信頼できる選択肢の一つではないかと思います。この内容については以下のPodcastでもお話しているので、ぜひ聞いてみてください。では。