顧客と関係性を築くための道具

プロダクトをつくる、というのは突き詰めると「対象への関心」を深めることかな、と思ってる。原動力は誰かへの猟奇的な興味・関心だ。
よく「事実に近づきたい」という言葉を使う。僕らのプロダクトを手にした人が、何を感じ、何を求め、結果としてどういう使い方をしたのか。何を残念に思ったのか。
良く感じるのは、作り手のエゴで生まれたプロダクトや機能が成功するような、ポテンヒットが生まれるブランクスペースはどんどん狭くなっている。人の要求を深く理解し、その達成をサポートできる形をつくることが「人が欲しがるものをつくる」唯一の方法とも思える。
「だれか」を正しく理解するというのは死ぬほど難しい。知ろうと近づいたり、観察したりするけど、間違ってばかりだ。 それでも「猟奇的な関心」が原動力にあると、理解に励み続けることができる。たまに「すこし理解できたかも」という瞬間を重ねて、「だれか」への理解を深めていく。
自分でリスクを負って試行錯誤を重ねてきたので、「理解の深め方」にもなんとなく整理がついてきた。この記事では普段ぼくがプロダクトをつくるときにユーザーを理解するときに使う道具3つを紹介したい。

1 / インタビュー

人の生活・習慣・性格・環境。そういったメタ的な背景を知るために使う。逆に、極論すると「プロダクトのこと」を聞くことはほとんど無い。
僕はプロダクトをつかうユーザーのコンテキストを極めて重視している。誰と過ごしていて、どのシーンで、どんな思いで、どうやって使ってもらうのか。
しかし、コンテキストを正確に答えられる人は殆どいない。コンテキストを汲み取って、プロダクトを生活にセットするのはこちらの役割だ。プロダクトのことなど相手は興味ない。決して聞かない。
かわりに「相手が事実を答えられる対話」を心がける。
  • 何人でお住まいですか?
  • 子供は何人いますか?
  • お迎えはいつも何時に向かいますか?
  • 子供がよく食べるものはなんですか?
  • 普段、仕事は何時頃に終わりますか?
そういった「生活にまつわる事実」をヒアリングしながら、時折こぼれてくる感情や、更に隠れた事実を対話の中から探していく。
インタビューが終わった時、その人が起きてから眠るまでをクリアにイメージできるようになる。それがインタビューのゴールだ。そうやって集めた定性的だけどクリアなビューを、プロダクトに落とし込む。
「今あるもの」を改善したいなら、インタビューは時間のムダだとすら思う。そうではない、「今ないもの」のヒントをインタビューから拾う。

2 / ファネル分析

今あるプロダクトの「どこに」問題があるのかを理解するには、データを用いるのが一番だ。中でもファネル分析だけを極めれば、他の数値はいくらでもよくできる、というくらいぼくはファネルに傾注している。
優れたデータは「率」で表される。その代表がファネルだ。ただし、ひとつのファネルを引いて満足に足ることはない。例えばタベリーの内部で利用して来たファネルはゆうに30を超える。大きなファネルにも細かなファネルにもそれぞれ価値があるが、「具体的なアクションにつなげる」ためには細かさが重要だ
 
サンプルファネル
サンプルファネル
 
  • 大きなファネル: プロダクトを訪問してから購買(コアアクション)完了、など。定点観測し問題箇所の大まかな優先度をつける。
  • 細かなファネル: アプリをインストールしてからオンボードを終えるまでの計5枚の画面のどこでどれだけ離脱したのか 、などとにかく細かなファネルを注視する。原因箇所の特定に使う。
プロダクトを「改善」するときに、一番始めに行うのは「問題の場所の特定」だ。ファネルは極めて明確にその位置を教えてくれる。

3 / ユーザビリティテスト

ファネルが問題の場所と優先度を分析する手法だとすると、問題の原因を観察から見つけるためにユーザビリティテストは極めて有効だ。
例えば画面A→画面Bへの遷移で、大きな離脱が起きていたとする。その離脱の要因をデータで検証をすることも可能だ。
例. - ロードが耐えきれないほど遅いのでは? → レスポンスタイムを測ってみる
しかし、その裏にある事実を真に理解しようと思ったときに、できれば観察を組み合わせて行いたい。
タベリーはユーザビリティテストを重ねてつくったプロダクトだ。その様子は以下の記事にもまとめてあるが、リリース以降もユーザビリティテストを繰り返し行っている。
 
ユーザビリティテストを置き換える手段として、かなり重用しているのがReproというプロダクトになる。一部のユーザーに許可を得た上で、利用動画を撮影させていただき、それを観察できるサービスだ。
2019年3月時点で、Reproは上記の機能を終了したため、利用することはできない。
ユーザーと会う、というのはかなりのカロリーを必要とするが、Reproなら「2回めにアプリを訪れて、商品ページをみ始めたユーザー」のみなど、絞り込んで動画を撮影できる。先のファネル分析で見つけた問題箇所だけを撮影でき、かなり効率的な改善が可能だ。
また実際に会わないことのメリットも大きい。ユーザーは一度お会いしてしまうと、温情から「本来は離脱していたはずの画面でも頑張って突破してしまう」みたいなことがよく起きる。本当の客観的な「使い方」を観察する上ではReproのほうが優れている(替わりにお会いしたときに確認できる「表情」や「指の動き」はわからないので使い分けが良い)。

おわりに

ということでサッと書くつもりが長くなってしまったけど、
  • 「人の理解→インタビュー」
  • 「問題の場所の理解→ファネル」
  • 「原因の理解→ユーザビリティテスト」 という整理で、使い分けながらユーザーと向き合っている。
繰り返しになるが、その原点や原動力には「相手への猟奇的な関心」がつきものだと思う。価値を届けたい人にちゃんと向き合い続けたい。