10xのための逆説 #pmconfjp
2019年11月12日、Product Manager Conference 2019に「10xのための逆説」というタイトルで登壇した。記事の作成は予定していなかったが、20分の講演枠で用意したスライドが消化しきれず、また事前に募集したQ&Aへの回答もできなかったため本稿はフォローアップ記事となる。
以下、登壇に利用したスライドです。
本稿では各スライドの内容と、そこで話した/話す予定だった要旨を記事へ記載する。
登壇アジェンダ
10xの解釈10xのための「定説に対する逆説」定説1. 「素早い改善」ができるリーン・アジャイルな組織が良い定説2. toC = 急速な成長、toB = 積み上げ式での成長定説3. 人が欲しがるものをつくれ(Make something people want)定説4. PdMはXXXはできたほうがいい定説5. グロースハックは手数が重要「定説に対する逆説」の結論事前募集したQ&AQ. プロダクトとは?PMFとは?ベンチマークとは?どう定義されていますか?Q. PdMに必要な資質とはなんですか?Q. PdMと起業家の違いはなんですか?Q. 組織・チームを作る上で大切にしている考え方は何ですか?Q. コアユーザーの体験を構築する部分と多機能化や売上のバランスをどうとるか?Q. LTVが低いアプリだとグロースさせずらいなと感じてますが、低CACのグロース戦略はどういうパターンがあると思いますか?Q. 失敗した意思決定と理由Q. 言語化のちからを培った方法、言動を参考にしてる勝手にメンターにしてるような人はいますか。追加で頂いた質問Q. 発表中度々あげられていたグランドデザインについて、定義を教えて下さいQ. 10Xが解決してきたフリクション、また次に見据えているフリクションQ. 探索の際に置いている目標(xxxな状態が作れていること)はなんですか?
10xの解釈
10xは10倍良いもの、非連続な価値を持つもの。プロダクトの文脈では以下の3つを同時に満たすようなプロダクトと個人的に定義。
- 特定の人物の、特定のシーンの、重要なイシューを解決する - 極めて高い解像度で語れるシーンの、重要なイシューを解決する。
- イシューが発生している構造を「仕組み」で変える - 産業やマーケットの構造自体を変化させ、イシューが発生しない状況を構築する
- 誰もが触れる場所へプロダクトを置く - 多くの人に届いて、使ってもらうことで初めて価値がある
10xのための「定説に対する逆説」
オファーが来た当初、「何を話すべきか」というアジェンダが自分の中で浮かび上がらなかった。そこで事前にTwitterにて質問を募集した(N=40)ところ、関心の多くが「実体験を教えてほしい」というものと「一般の解釈との差異を知りたい」というものだった。
そこでプロダクトを中心に据えた企業経営を通じる中で感じた「世の中で言われている定説と現場での逆説」について回答するセッションとした。
定説1. 「素早い改善」ができるリーン・アジャイルな組織が良い
逆説. リーンな組織の真の価値は「探索力」
成果への影響度で最も大きいのは殆どの場合、プロダクト設計力。そのための探索力や気づく力。ユースケースの芯を食わない限り、改善でなにか素晴らしいものが生まれることは稀(外部要因に依存が大きくなる)。
リーンは「コストを抑えて芯を探す」手段。10X社の場合は「探索手段としてリーンにプロダクトを創る」という手法を活用している。またトランザクションが複雑な金融・小売の領域など、初期にリーン改善が正解とはなりえない現場は無数にある。
定説2. toC = 急速な成長、toB = 積み上げ式での成長
逆説. toC or Bはほとんど関係ない
ある期間での成長速度は、その期間で大きなフリクションが解決できるかどうかに依存する。平成を代表するメルカリやLINEの例では、最大のフリクションポイントがユーザーの数であり、それは資金で一定解決できた。
B向けにおけるフリクションポイントは、非生産的システム、複雑なオペレーション、ガバナンス、であることが多い。この3つを解決したプロダクトについて、急速な成長事例が生まれ始めている。= Digital Transformation(DX)。なお観測ベースだが世界のDX事例の半分以上はスタートアップによって引き起こされていると言えそう。
定説3. 人が欲しがるものをつくれ(Make something people want)
逆説. シーンで必ず使われるモノを作れ
実在する人のために、というのは大前提。極めて具体的なシーンとコンテキストに対してどれだけ適切なプロダクトであるかのほうがずっと重要。
ペルソナという概念は心理学者・ユングによって生み出された概念。ただマーケティングで多様される際には、誰がいつどこで、という情報が曖昧。 「都心×共働き×子育て世帯ワーママ」というペルソナをおいてつくったタベリーは似たような人でも刺さる人と刺さらない人が割れた。同じ「料理」でも、シーンによって意思決定やビヘイビアは変化する。シーンの輪郭を捉えるべき。
※ペルソナについて私の理解が誤っていたため、一部訂正しました。
定説4. PdMはXXXはできたほうがいい
逆説. できたほううがいいのは当たり前だが、必須ではない。「高いスキル」や「スキルを判定できるスキル」をANDで複数持つ。
PdMの責務がプロダクトの成功であるとすると、XXXで定義されるような実装スキルとは全く違う次元で成否が分かれるかと思う。Q&Aのセクターで後述する「PdMに必要な資質」に関連する。
定説5. グロースハックは手数が重要
逆説. 手数より位置が重要。なにより実はグロースハックが必要なプロダクトは極めて少ない
幾千の施策を実験してきたがグロースハックが効果が出る場所は「誰もが通過する場所」か「最も重要なコンバージョンの直前」に限られる。そして何より、グロースハックするよりもプロダクト自体のグランドデザインのほうがずっと数値にシビアに効いてくる。誰の、どういうシーンを捉えるか、どういった構造の歪みを是正するか。タイミングなど。グランドデザインが悪く、トラクションがないものをグッロースハックで巨大サービスに成長させた事例はほとんどない。
例外は環境の変化によるゲームチェンジ。SEOルールの変化やSNSの登場によるトラフィック発生のルールが変わったときに勝者の入れ替えは起きうる。10年に1度程度と機会は限定的。
「定説に対する逆説」の結論
結論. 権威的な事例から導かれた定説は自身のプロダクトの成功と無関係
自分自身も多くの権威的な事例を集めて、無思考に定説を信じ、試行錯誤をしてきた。「NetflixのAB Test結果」「Airbnbの機械学習適用事例」など。一見参考にできそうな「権威的な事例」は無数に存在し、そこから多くの定説が導かれている。しかし、こういった事例を一通りを試すもほとんど事業を前にすすめる結果は導けなかった。
自分のユーザーと向き合い、考え、Un-concensus right(他の誰もが同意しない、自分だけが知る事実)を見つける・賭けるのが最も早く、成功に近い道と考える。 試行錯誤から、「答えは自分しか持ち得ない」という逆説があると考えるようになった。
事前募集したQ&A
Q. プロダクトとは?PMFとは?ベンチマークとは?どう定義されていますか?
定義
特にプロダクトマネジメントに関する定義は以下一連のツイートが現在の考え。
Q. PdMに必要な資質とはなんですか?
- 覚悟・ビジョン: プロダクトが1度や2度の試行錯誤でうまくいくことは稀。相応の覚悟と、失敗のたびにビジョンをアップデート出来ないといけない。
- 学習力: いつでもスキルセットを自ら習得して穴を埋めたり、スキル人員を見極める能力。
- 兵站力: プロダクトを成功させるという戦争に必要な、理想的な組織を自らつくる力。具体的には資金調達と採用、そして集めたリソースのマネージ。PdMに限らずマネージャーという職業にはリソースを集め活用する義務がある。
どれも定義されたわかりやすいスキルではない。ANDで獲得していけるアニマルである必要がある。
Q. PdMと起業家の違いはなんですか?
個人的に差はない、タイトルくらいでは
何かを達成したいという意志の低い人は起業家にならない/なれないように、マネージャーという職業もそもそもできないのではないか、と考える。PdMとはそのくらい意志とマネージャーとしての資質が求められる職業。
Q. 組織・チームを作る上で大切にしている考え方は何ですか?
ストレートであること
創業者と経営者と株主と従業員といったステークホルダーにとって、
- ユーザーの成功、というゴールがストレートであること
- ゴール達成に伴うインセンティブがストレートであること
- プロセスや意思決定の背景がストレートに伝わっていること
- 誰もに情報がオープンであること
Q. コアユーザーの体験を構築する部分と多機能化や売上のバランスをどうとるか?
戦略に依存する。戦略と実装を一致させ続ける
機能のサイズ、数、マネタイズポイントはすべて戦略に依存するため一概的な答えはない。戦略と実装を一致させることがスタートアップやPdMには求められる。
Q. LTVが低いアプリだとグロースさせずらいなと感じてますが、低CACのグロース戦略はどういうパターンがあると思いますか?
ない。LTVが低い=顧客への提供価値が低い。CACが低いだけでは低い到達点しか見えない
粗利はサービスの付加価値と言われる。LTVは1顧客から得られる粗利の積和。LTVが低い = 付加価値が低くともマスに届いて高い頻度で使われることで成立する事業もあるが、「嗜好の分散化」のトレンドの中では苦しいと考える。自分ならそのケースでは付加価値の設計し直しや、最大化を考える。
Q. 失敗した意思決定と理由
実は誰もが考える「象徴的な取り返しのつかない失敗」はほとんどない。易きに流れないことが大事
失敗は「二度とその失敗を起こさないための学び」を得た時点でかなりの価値を持つ。リアルな「失敗というのは、避けられたはずで、学びが残らず、何も解決せず、時間やマインドシェアを奪うもの」である。それはなにかというと「日々の易きに流れる惰性の積み重ね」だと思う。易きに流れないことが大事。
なお学びを得られる失敗は意義があるが、避けるに越したことはない。それより大きな成功のほうが「自分にしか蓄積されない N=1の学び」が得られると思う。自分自身もなにより成功を追い求めている。不要な失敗は可能な限り避けたい。
Q. 言語化のちからを培った方法、言動を参考にしてる勝手にメンターにしてるような人はいますか。
同年代の言語化の化け物がメンター。方法はブログを書き続けてきた習慣。
2015年、プロダクトマネージャーとして駆け出しだった頃に見た、同年代であり今では大事な友人の[上杉周作 @chibicode](https://twitter.com/chibicode)のブログに大きな影響を受けた。どの記事もいつまでも褪せない。
メリクリです。NHK・Eテレ『#ニッポンのジレンマ』元旦スペシャル放映まであと一週間となり、番組宣伝のためにブログを書きました。タイトルはアレですが、内容は真面目です。放送は元旦夜11pm/NHKです。https://t.co/dMvRoxuUgB #ジレンマ2016 #ジレンマ
— Shu Uesugi (@chibicode) December 25, 2015
自分もこうなりたいと思い未だに追いかけて、書き続けている。その中で培った言語化力が、プロダクトマネジメントや資金調達など数々の、人生を動かすシーンで自分を助けてくれる最大のツールになっているのは間違いないと言える。
追加で頂いた質問
Q. 発表中度々あげられていたグランドデザインについて、定義を教えて下さい
構想の全体像。「戦地の地形を把握し、どういった戦略で事業/プロダクトを構築し成長させるかという戦略」の意味で使っている。
特に日本では「デザイン」という言葉は「UIなどの目に見えるものに対する設計」の意図で使われがちだが、個人的には事業やプロダクトの成否を大きく作用するこのグランドデザインを指して利用することが多い。
Q. 10Xが解決してきたフリクション、また次に見据えているフリクション
これまでは「献立の意思決定」の変数が多数あり、それらを適切にマッチングするというフリクションを解決してきた。また食品ECでのの買い物は「ニーズ緊急度が高く」「配送エリアも限定的で」「かつ商品を10点以上意思決定する」という、デジタルマッチングの中で最も困難なマッチングが必要なため、このフリクションの解決にも尽力してきた
上記を行う中で、「配送枠の逼迫」「商品の欠品」「商品への信頼度の欠如」といったUXにとっての基礎的なフリクションを解決しないとマーケットが伸びないことが明確。これらの解決を図っている。
Q. 探索の際に置いている目標(xxxな状態が作れていること)はなんですか?
探索の目的による。定性的でも構わないので探索すべきリスクを極めて具体的に言語化するのが重要。
以下のような例
- ソリューションがフィットしているか試すために、100人にプロダクトを配布してナチュラルな継続率を確認する
- マネタイズのために、誰のどの財布からお金が取れそうかを探索する
以上。改めてありがとうございました。