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独自のメトリクスを持とう
時間ができると、現在は東京大学本郷テックガレージのTaka Umadaさんの記事をよく読み返している。
馬田さんはMicrosoftのプロダクトマネージャーとしてのキャリアをもつ。 彼の資料は、世界で最も成功しているスタートアップ養成所である「Y combinator」が行っている”How to Start a Startup"という講義の資料を日本語に翻訳し、かつ彼自身の視点を加えた非常に骨太なものが多い。僕がよく見返しているのは以下の3つの資料だ。
これらに共通するキーワード「メトリクス」について簡単にまとめておきたい。
メトリクスとは?
以下の3つの要素を満たす指標がメトリクスである。
- 今の居場所と現実を理解するための指標
- 行動を起こすための指標
- コミュニケーションのための指標
この3つの要件を満たす、事業における中間指標といったほうがわかりやすい。 3つ目の「コミュニケーション」については社内での共通認識を醸成するためのメトリクスという顔もあるが、投資家向けにトラクションを証明する数字としての顔のほうが強いかもしれない。
同時にメトリクスに見られる性質として以下があるかな、と個人的に考えている。
- フェーズによって異なる。
- ある時点でスタートアップが定めるメトリクスは数個に限られる。
- メトリクスとはボトルネックである。
- Aというメトリクスを伸ばすために、スタートアップは全力を使う。
- メトリクスをミスるとことは行動指針を間違えていることと同義。
- 追っても行動につながらないメトリクスはゴミである。無い方がいい。
メトリクスをミスると何が起きるか、とてもわかり易いスライドを1枚抜粋させてもらった。
同一の業界、類似した事業を展開していたとしても、そのフェーズで着目する指標一つで得られるアウトカムにこれだけの差がでるということを肝に銘じたい。あな、恐ろしや。
KPIとメトリクス
「KPIとメトリクスは何が違うのか?」という質問を僕自身社員から受けることがあったので、個人の見解をまとめおく。 「メトリクスはKPIからフェーズに合わせて最適なものを2~3抽出したもの」という理解で良いと思っている。
基本的に企業活動は様々な変数=KPIから成り立っている。スタートアップは急速な成長を目指すために、変数の絶対数を抑える事業ドメインを選ぶことが多いが、自社で在庫を抱えるタイプの商売をする場合は仕入からデリバリーまでやることが多いため、どうしても変数の量が膨張しがちである。
数百から数千に及ぶKPIからメトリクスを選ぶという行為は、
- リターンとリスクを把握し
- 日々追いかけるKPIを意図的に絞り込み、
- ひたすら実践力を上げて数値を伸ばすこと
これは経営判断であり、多くの場合もっともサービスやプロダクトに対しての情報を持つ人間が行うべきだ。 すなわち、Product Managerの最も重要なタスクの一つに数えられると考えている。
メトリクスはビジョンでもある
上にも書いたとおりメトリクスとはボトルネックである。しかし、ビジョンでもある。
ボトルネックは、まるでモグラたたきのように動き続ける。Aを潰したと思ったら、今度はBで詰まる。 「今は」継続率が大事、「今は」オペレーションが大事。「今は」「今は」と尾崎豊のように「今」を問い続けて移動するボトルネックを追いかけていく。
スタートアップは、「何をしないか」が重要と言われる。その所以は重要なボトルネック以外にリソースを割いている余裕が無いからだ。 フェーズごとに対処すべき最適なボトルネックを定義し、そのための行動をし続けることでプロダクトを進化させていくことが求められ続ける。
これを読み替えると、正しいメトリクスはビジョンを示すことと等しい。 忌々しいボトルネックであるメトリクスは、同時にプロダクトの描き出す未来を体現したビジョンでもあるようだ。
自社のメトリクスを持とう
Taka氏の資料にて、メトリクスにまつわる注意点として3点上げられている。
- 独自のメトリクスがない
- 計測後のプロセスがない
- メトリクスが決められない
特にスタートアップとして最も注意したい点は「独自のメトリクスをもつこと」だろう。
スタートアップは何らかの新規性をもったビジネスモデルやプロダクトを創ることで市場を広げたり新しく創っていく会社を指すので、スタートアップが自社に対して設定するメトリクスは他者の模倣からは生まれない。
PVという指標はあらゆるメディアにおいて今もこれからも重要なものであり続けると思うが、
「あなたの会社のメトリクスは?」 「PVです!」
というやり取りがあるとするなら、それは自社の課題を正確に把握できていない証拠だろう。 という指標は絶対値として、また相対値としてサイトやサービスのパワーを示すものではあるが、それだけでは自分の現在の居場所を知ることも、次に起こすべき行動を特定することも、密なコミュニケーションを取ることもできない。
LinkedInのメトリクス
逆に、独自のメトリクスを上手く活用しサービスを成長させた例としてLinkedInの話がよく挙げられる。
世界最大のビジネスSNSであるLinkedInはPVではなくプロフィールページの訪問数をメトリクスとして置いた。
これはLinkedInを利用するヘッドハンターやリクルーターがどれだけ多くの人間のプロフィールを見ることができたか?というイシューに絞り込んだ結果生まれたメトリクスだった。
「世界一のプロフェッショナル達のネットワーク」というプロダクトのビジョン、そしてそれを活用し「プロフェッショナルの流通の中からフィーをとる」というビジネスのビジョンの両方に非常にマッチしたメトリクスだと思う。 この例のように、自社にフィットした精度の高いメトリクスを設定することでうまくサービスを成長させていきたいところ。
僕自身もサービスに対しメトリクスを設定しひたすらExecutionを行っているが、メトリクスは動き続ける という前提を忘れると一度設定して安心してしまうもので、非常に怖い。常にサービスやプロダクトに対して緊張を張り巡らせておかなくてはいけないのは、Product Managerの痛みかもしれない。
追記 : ebayのメトリクス
元・ebayのPMを務めたマーティ・ゲーガン氏がグローバルなサービスの定義を行う上で如何にメトリクスを設定したかを詳細に記載されている本。何度か紹介しているが改めてこのテーマに絞って読み解くのにも使える。