スクショケシというプロダクトをつくった話

2018/4/3に、「スクリーンショットだけを選んで消せる」という、ただそれだけの実験的なiOSアプリ『スクショケシ』をリリースした。
リリース直後の反響は(特にTwitter上で)大きく、溜まったスクリーンショットをシンプルに管理できるプロダクトとして話題(≒インストール)を呼び、一時はTwitterトレンドに掲載された。
 
このプロダクトの開発自体は僕と石川が休日を使って行い、デザインと仕様に半日、開発自体に丸1.5日程度でリリース。しかし僕らとしてはかけたリソース以上に大きな仮説が検証できた。
スクショケシを通じて行った検証価値は、僕らが手がけるタベリーというプロダクトに輸入され、大幅なリニューアルの意思決定を後押しした。
そんなスクショケシだが、この記事では、「スクショケシはどんな仮説検証を狙ったプロダクトだったのか?」について自身の整理も含めてまとめたいと思う。

検証1 / 「思い出を取り出しやすい状態に保ちたい」という潜在ニーズ

そもそも、僕は新しいプロダクトは「つくること以外で検証が難しい仮説」を検証するためにつくるものだと考えている。例えば僕らが提供している10秒献立アプリ「タベリー」以前にも、レシピサイトや献立提案アプリというのは数多く存在していた。
しかし、それらのプロダクトでは解決できていない大きなイシューが複数あると仮説し、より汎用的な解決法としてタベリーを世の中に提案したところだ。
同様に、スクショケシも以下の3つの仮説を起点に生まれたものだった。
  1. 「記憶や思い出のストレージが、カメラロール+SNSに完全に置き換わりつつある?」
  1. 「スクショの撮影枚数自体が増え、ストレージにノイズが混ざりやすくなっている?」
  1. 「大事な思い出を取り出しやすく保ちたい、というニーズは恒久的なものではないか?」
特に1,2点目については「スマホが普及しきったからこそ生まれるペイン」だと考えており、タベリーの生まれた背景とも一致する。
これらの背景仮説から、カメラロールをこれまでより10倍簡単にマネジメントし、思い出を取り出しやすく保つプロダクトにはニーズが有ると考えた。
またスクショの使われ方を観察すると、「記憶の一時保存とシェア」に利用され、蓄積の性質は必ずしも重要でないケースが多かった。しかし、便利なためカメラロールに分散的に溜まってしまう。
こうした実態を観察し、「スクショを消すだけでカメラロールから余計な記憶を取り除く」ことにフォーカスしたプロダクトは、上記の仮説をコスパよく検証できる手段だと考えた。

検証2 / マイクロイシューも、純粋想起を取れるとプロダクトとして成立する

アプリというプロダクト形態は、以下の2つのユースケース最も適したフォーマットだと考えている。
  1. 接触頻度が高い
  1. 問題意識に対して解決方法として純粋想起がとれる 逆を言うと、これらのどちらも満たさないプロダクトはアプリに向かない、ということになる。
僕が先に挙げた「思い出のメンテナンス」というのはとても生活の中で頻度の高いわけではない。もしかしたら大きなイシューでもない。しかし確実に存在する。このイシューに対して、純粋想起をとっているプロダクトはまだ無いように思われた。
実のところ、iOSの標準「写真」アプリには「スクリーンショット」フォルダが用意されており、その中身を全て削除するだけでスクショケシと同じことが実現できる。僕らがそのことを知っていてなお、スクショケシは価値を提供できると考えていた。その理由は「機能」ではなくはこの「想起」と「シンプルさ」ゆえだ。
「写真」アプリはたしかに写真≒思い出が見れるし、アルバムも作れるし、スクショも管理できる。なんでもできる、時になんにもできない。
タベリーの経験を通じてユーザーが許容できる機能数に関する理解を深めていたこともあり、↑のように考えていた 余談だが、先日見事IPOを果たした「Dropbox」は過去にスティーブ・ジョブズより「Dropboxは機能であって、製品ではない」と一蹴された。iOSには類似プロダクトである「iCloud」が組み込まれた。しかしDropboxはその後も力強く成長をし続け現在に至る。これが何を物語っているか、を僕達もスクショケシを通じて検証したわけだ。
もうおわかりだと思うが、「スクショケシ」という名前はこの純粋想起をとるためにあえて動詞化した。

10Xという会社にとってのプロダクト戦略

こうした2つの大きな意図をもって趣味的なプロダクトをリリースしたことで、10X社としては(ここに書かれていない事も含め)かなり実用的な学びを得ることができた。
特に2点目の検証ポイントについてはかなりの確信を得るに至り、現在の本命プロダクトである「タベリー」のリニューアルへとつながった(「機能のバッサリ削減」と「デザインのシンプル化」。具体的にはぜひアプリ内のリリースノートを追いかけてみてほしい)。
リニューアル後の経過も順調。今後価値を積み増すために何をすべきか、についてもより輪郭がクリアになったこともあり、タベリーの進化に、スクショケシの果たした役割は大きい。
10Xは特定のプロダクトやテーマを実現するためにつくった会社ではなく、その文字通り10倍の価値提供を実現する「発明」を目指すチームだ。プロダクトのポートフォリオにスクショケシが加わったことは、このメッセージを明示化する上で会社にとっても良かったと思っている。
※今のメインはタベリーである領域でのホームランを狙っているが、他のマーケットへチャレンジすることも十分にある。 発明を目指していくにあたり、僕らは「議論より実験、想像より事実」を非常に重要だと考えている。もちろん良い実験をするための議論、最適な事実を集めるための想像は欠かせないのだが、精度の高い意思決定は自分たちの意志や想像を省いた客観的事実を用いたいし、その方が発明に近づけると考えている。
そのためにも、早く・実験力の高いチームを創っていくことが今の一番の優先事項。実験を通じてファクトを集める力は確実に積み上げつつ、大きなイシューだけにチャレンジし続ければ、いつか10Xな発明を生み出せるはず。そういう考えで会社を創っていっている。
そのうえでも、スクショケシのような、実験的な小さなプロダクトも重要だと思っている。合間を縫ってこれからも創っていきたい。