サーバントリーダーシップ

今回の記事ではrebuild.fm #123について触れてみたいと思う。
 
いきなり横道にそれるが、podcastはランニング中や移動中に1.5倍速で流して聞けるのが便利。一方でメモがとれず終わった後にきちんと整理する時間を取らないと「要旨はなんだったのか」が曖昧になり自分に残らない感があるのが悩ましい。
今回のゲストである @naoya_itoさんが『エンジニアチームのリーダーシップ』というテーマについて『Fate/Zero』というアニメの11話「聖杯問答」になぞらえてうまく例えていた。
「聖杯問答」の内容について、超端的に言うと、世代を超えた3人の王が統治の仕方を論じ、民や臣に厚いタイプの王が大いなる野望を追いかけるタイプの王に負ける、という話。

趣旨:サーバントリーダーシップの是非

放送を通じた主張が、近年日本のみならずUSも含めた開発現場で良しとされがちな「サーバント・リーダーの是非」。プロダクトマネージャー論に通ずる話だなと聞いていたが、トータル以下の3点で整理できるかなと思う。

主張(1):

  • リーダーシップをとれといわれたとき、人が求めるのはサーバント型な時が多いけど、
  • 人事的な問題、とくに人が辞めたい時に彼らができることは少ないよ

主張(2):

  • チームが開発に集中するために雑用を引き受け、徳で人を治めるサーバント型リーダーが良いとされているけど、
  • 長期的に見るとビジョンを示すリーダータイプのほうが必要とされているよ。

主張(3):

  • サーバント型はエンジニアがコーディングに集中できるよう、その他の雑務を引き受けるので仕事をしているように思えるかもしれないが、
  • ビジョンを作ることは実はもっとエネルギーのいることだよ。
主張を補佐する語句について見てみよう。

サーバントリーダーシップとは

そもそもサーバントリーダーシップとは聞き慣れない言葉かもしれない。放送内では以下の様な存在として定義されていた。
  • 召使型のリーダー
  • プロダクトに自身がコミットするより、開発メンバーのキャリアを導いたり雑務を引き受けてサポートすることをメインとする
    • それはマネージャーでは?という声も
  • メンバーとの関係も良好に保つことが多く、短期的に良いリーダーと捉えられやすい
  • 一方、深刻な「いい兄貴問題」の罠 にはまりやすい

良い兄貴問題とは

サーバントリーダーは結果的に雑務を引受けプロダクトにコミットする時間が少なくなることにより、「メンバーから見ると相談のしやすい兄貴分」にはなれるがプロダクトを長期的な成功に導く上で陥りやすい罠がある。
  • 日々目に見えているメンバーの課題を解くことで「仕事している感」が出てしまい、ビジョンを持ちにくい
  • メンバーが解決できないような上段の課題に面した時、例えばアーキテクトをどうすればよいか、のような問題に対して解が出せない
  • 結果的にメンバーがリーダーにするビジョンの欠落が、長期的な期待値のズレを産む
  • また、「関係が良好だがビジョンへの共感がないメンバー」が退職を伝えてきた時、やれることが少ないという問題も。

ビジョンを示すことと細かいタスク、どっちが楽か?

  • ビジョンを創ることはエネルギーが必要。たとえばプロダクトが進むべき未来を、制約がない中で決断していくことがProduct Managerには求められるが、これはとてもエネルギーの必要なこと。
  • サーバントリーダーは自己犠牲で見えている課題をやっつける→仕事した気になる→抜け出しにくいというループを抱えやすい。

役割が違う論

  • サーバントリーダーとビジョン型リーダーは役割の違いだから、と分けて考えることも出来る。
  • たしかにCTOとVP of Engineeringの関係はビジョン対サーバントという分けになりやすい。
  • しかしサーバントリーダーのような雑務の引受役を、マネジメントにあがろうとするエンジニアが「やりたいと思うか?」 。これは重要な問いである。

サーバントリーダーであることを求めてしまう大衆

こういった問題をはらみながらも、多くのメンバーというのはリーダーに対し、臣に熱く雑務を引き受けてくれるサーバント型を求めがち といういわばマーケットの要求問題もある。

まとめ

個人的に整理した主張はどれも賛同でき、また自分がそう振る舞おうと考えているポイントに近かった。これまで「サーバント性はフェーズによって(プロダクトマネージャーにとって)必要性が変わる」と考えていたが、そうではなく「役割として整理する」という方が個人的にしっくり来る。
とりわけビジョンを創り示すという行為は、そのプロダクトにとっての「未来の当たり前の姿」を定義するということであり、いくら知識を仕入れても、いくら考えても決め切ることの難しい問いだと思っている。その行為のコストは、残念ながら経験者にしか測り判断することが難しい。
プロダクトマネージャーは(もちろん妥当性を証明できればそれに越したことがないが)ある点で思い込み・偏執を形成していく必要があり、その思い込みがビジョンを創る。サーバントリーダーはある種マネージャーの巨像ではないかと考えている。もちろん必要な人材だと思うのだが、自らの役割がビジョンなのかサーバントなのかを意識する必要がある。