日本のオンライン小売の推移を紐解く

本稿は先日公開した「日本のオフライン小売を進めてきたテクノロジー」の続編に当たる。「オフライン小売で起こったこととその要因」を抽象化して理解しつつ、オンライン小売の推移をファクトで振り返る。その上でオフラインでの「法則」はオンラインにどう作用したのかについて考察する。

【小売を考えるシリーズ】
第1部: 日本のオフライン小売を進めてきたテクノロジー
第2部: 日本のオンライン小売の推移を紐解く(本稿)
第3部: 日本におけるOMOの正体はなにか(後日公開予定)

オフライン小売の歴史から言えること

まずはじめに、前回の記事から「オフラインにおける法則」をおさらいしたい。要約すると以下の3点に絞られる。

  1. 「1980-2000年代に、ロードサイドで拡大した小売」が勝者となった。クルマという技術によって、トラフィック(人の流れ)がロードサイドに集まる構造が生まれた。そのタイミングに、ロードサイドへ店舗出店を張った地方発の小売が巨大となった
  2. ロードサイドが飽和しトラフィック構造が変化していない現在、オフラインにおいて勝者は固定され、変動は起きにくくなっている。
  3. 飽和期においては、「ワンストップショッピング」というユーザー便益を提供するプレイヤーが成長。ロードサイド後期に参入したプレイヤーのうち、コンビニやドラッグストア、ドンキホーテなど。

この3ポイントから学べることはなにか。それは「小売の成長はトラフィックの転換点にエントリーできるかどうかに依存する」という点であると思う。たとえどれだけプロダクト(店舗、商材)の便利さや、革新性を謳ったとしても、人が生活する動線上に店舗を展開できなければ大きくなることは叶わない。これがオフライン小売の歴史から学べる法則なのだろうと思う。

「国内EC市場」の全体を掴む

続いて、現在の国内のオンライン小売(便宜のため、ECとする)市場がどういった構成になっているのかを確認しておきたい。

以下は2018年時点での各種モールとカートASP事業者の店舗数、GMV、1店舗あたりGMVをまとめたものだ(公開情報及び、筆者による推算=赤字を含む)。

FY2018 # of Shop & GMV - Mall & Cart ASP

METI資料によると、日本における物販ECの年間GMVは約9.3兆円。上記のリストの合計GMVは6.5兆円に達し、物販ECの大部分が上記10程度のモールやカートASPへ出店する事業者によって形成されていることがわかる(注:RakutenのみサービスEC代表格である楽天トラベルの流通額も含まれる)。

上記のサービス以外で、FY2018時点での年間GMVが1,000億円のオーダーに届くサービスは(筆者の観測上では)以下の「数個」に限られる。

つまり「日本のEC市場の構成」は以下のようにサマライズできる。

  1. 大多数の事業者はモールやASPといった「プラットフォーム」を利用してECを展開しており、出店プラットフォームは上位10程度に収斂している。
  2. 上位プラットフォームの他、年間1,000億円超のGMVをもつプレイヤーは自社流通ECをもつAmazon JPと、近年爆発的な成長をフリマアプリ、そして家電ECのヨドバシくらいである。

PS. モール&カートASPに関する補足 全体で約200万の出店があり、多くがYahoo! Shopping(FY2018時点で約75万店が出店)とBASE(FY2018時点で約70万店が出店 ※推定)を利用している。おそらくBASEに近い規模の出店数がSTORES.jpにもあるだろう。他方で1店舗あたりのGMVに大きな差がある。これは「個人やSMBがセルフサーブで出店できるプロダクトかどうか」に依存するように思える。

Yahoo! ShoppingやBASEなどは出店自体のコストがかからず、手軽に出店が行えるようなプロダクト設計になっていることからも個人や小規模店舗の出店が伸びやすい。他方でRakutenやZOZOTOWN、future shopは必ずセールスやコンサルタントの審査を通過する必要があり、一定規模の体力がある事業者に利用されているのではないかと推察できる。

ちょうどRakutenとBASEの中間レイヤーを狙ったカートASPが3つとも1,000億円超のプレイヤーとなっており、現在も成長を続けている。GMOグループはMakeshopおよびカラーミーを両方保有し、合算すると3,000億円近い流通額を誇る。GMO-PGとの相性も抜群なはずで、スポットが当たることは多くないが実は巨大なプレイヤーであることがわかる。

FY2018 3大カートASP 年間GMV

どれも似たようなプロダクト、フィー体系に見えて、その実は「出店する事業者の規模」に応じて極めて細やかな最適化がされている。ユーザーたる出店者は明確に棲み分けがされているようだ。

現在はここにプロダクト拡張性・コスト・実績の3点で最強とも言える「Shopify」という黒船が押し寄せており、今後もこの領域は大きく変革していくだろう。

日本のオンライン小売の推移を振り返る

ここからEC市場が現状に至った経緯を紐解いていく。

日本のオンライン小売(以下、便宜のためECと呼ぶ)の歴史は古く、1995年のWindows95発売を契機に数多くのショップがモールサービス等を活用してEC事業へ参入してきた。

1996年にサービスインした楽天市場は、「売り場面積の制約がない」という最大の強みを活かしたモール事業(多数の店舗が1箇所に出店する)を主軸に事業を展開。現在に至るまで20年以上、日本のEC市場の覇者として君臨し続けている

楽天から遅れて1999年には「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!オークション」、そして2000年には「Amazon Japan」がサービスインし、2002年には「Amazonマーケットプレイス(モール事業)」がサービスイン。EC黎明期に参入したこのBig3によって、日本のECの歴史は創られてきた。

以下は2006年以降の日本EC全体の流通額(Gross Merchantise Value: GMV)に占める、楽天、Amazon、Yahoo!の流通額のシェアを表したものだ(METI資料、各社IRおよび公開情報より)。

Disclaimer: 各社IRの計算基準が頻繁に変更されるため100%の精度ではない。またAmazonについてはいくつかの仮定をおいた上での推算になる。Yahoo!にはZOZO流通額は含めない。

EC市場に占めるBig3シェア - 占有率が伸長し続けている

個別に見ていくと以下のような形となる。

2018年末でこのBig3によるシェアは43%に達し、今なお増え続けている。Big3による寡占化の方向にマーケットが倒れているように読める。

さらに、その傾向は直近より強くなっていることを示すデータが有る。2017年から2018年にかけて、EC市場は約1.5兆円拡張しているが、その62%がこのBig3の成長によるものだ。

FY2018 YoY Market Expansion - 成長の62%はBig3から

オフラインにおいては、「クルマ × ロードサイド」というトラフィックが生まれたタイミングでエントリーした小売だけが勝者となり、勝者の固定化が起きた。それと同じ歴史がオンラインでも繰り返されつつあるように見える。

なぜBig3に流通額が集中したのか

この論点を考えるには、「オンラインの店舗へどのように人が流れるか」というトラフィックを掴むことがヒントになるのではないか。ここからは考察をメインで記載する。

基本的に「あるWebサイト・EC」へのトラフィックは以下の4つからしか生まれない。これらがオフラインで言うところの「道」にあたる。

例として、AmazonとRakutenの推定値をSimilarwebで確認してみる。デスクトップにおけるトラフィックソースは以下の通り、ほぼ大半が「Direct」と「Search」に依存している。

RakutenとAmazonのトラフィックソース via. Similarweb

では「Direct」と「Search」にはどういう力学が働くのか。

「AmazonのWebがお気に入りされる」には1度でもAmazonへ触れたユーザーが文字通り気に入る必要があり、これはUXに依存する。

検索は大きく分けて「指名検索 = 目的訪問」「コンテンツ名での検索 = 出会い」に分割できるが、いずれもEC自体やそこに掲載されるコンテンツを認知・想起できるかどうかに依存する。つまるところ、「想起クエリ」と「UX」がクルマにあたる。

さらに昨今の検索エンジンはUXを評価する。商品ページが充実し、コンテンツが読まれているか、購入完了まで到達できているか、レビューがしっかりついているかといった情報を活用して評価している。これにより同じ商品を掲載しても、すでに信頼度の高いAmazonやRakutenといったプレイヤーが検索結果の上位を勝ち取りやすい正のフィードバックループが回っている。そもそも企業体力も強いため価格競争にも強い。Amazonが扱う商品では、Amazonに勝てない構造ができている。

なぜこの構造が生まれたか。それはインターネットが普及し始める段階でエントリーしたからだ。競合が少ないうちに検索結果を独占し、UXへ投資することで固定客を掴む。このサイクルで拡大し続けたことにより、「想起クエリとお気に入り」を獲得し、トラフィックを独占するようになった。これがBig3による寡占の裏側でないかと考えられる。

オフラインの世界では、新しい道ができたり、移動手段が変化する際にはトラフィックの構造が変わりうる。しかし「想起クエリ」は人の記憶の中にあり、刷新が難しい。オンラインでのトラフィック構造は別のチャネルか別のクエリ(商品)が生まれない限り難しい。故に勝者の固定化がより顕著なのではないか。

オンライントラフィックの変化点

一つトラフィックの変化点があるとするならモバイル普及に端を発したパーソナルメディア化が挙げられる。SNSのタイムライン、検索エンジンでの検索結果について現在では一人ひとり違うコンテンツが流れるようになった。バイパス的な道ができたわけだ。

このバイパスの源泉は「人の嗜好性」である。ユーザーは好きなものに反応し、パーソナルメディアは反応されたコンテンツと関連性が高いものが推薦するという車輪が回っている。

バイパス化によって成立しはじめたのがニッチのための高単価商材、ニッチコマースだ。日本ではD2Cと言われることが多いが、サプライが生産なのか仕入れなのかはあまり関係ないためニッチコマースと呼んでいる。

オフラインにおいてはバイパス沿いでの商売はトラフィックが集まらないため、そもそも成立しなかったり大きくならないものがほとんどであった。オンラインにおいても、ニッチなサイトを開設しただけでは、ユーザーがそこへ到達するトラフィックの獲得コストが高くエコノミクスが成立しなかった。

SNSや検索結果のパーソナライズにより、「狭いが深い嗜好にハマる商品」が「世界中の同じ嗜好を持つグループ」に低コストでbitできるようになったため、商売として成立するようになっている。

日本においてBASEが既存のカートASPと異なるのは、このニッチにフォーカスしている点ではないかと考えている。人の嗜好が細分化し切るまで、メディアの面は変わり続け、そのトラフィックをうけてニッチコマースは伸び続けるのではないか。そのツルハシとなるBASEも伸び続けるのではないかと思う(メルカリも同じ側面があると思っている)。

なお野菜や食品など、嗜好のパーソナライズが起きにくくニッチコマースに向かない商材も数多く存在する。

今後のオンライン小売への考察

以下は市場成長率と、5つのサービスの成長率を比較したチャートだ。Amazonやメルカリ、BASEといったおなじみの銘柄の他、ユニクロ、ニトリという「ロードサイド覇者」が力強い成長率を誇っていることがわかる。公表されてはいないが、ヨドバシ、ビックカメラなどもユニクロに近い水準の成長をしていると見ている。

YoY 市場成長率 vs 各サービスGMV成長率

「ロードサイドの覇者」にとって、ボトルネックは供給力と店舗に引きずられたレガシーシステムだった。しかしオフラインが完全に飽和した2010年代より、先見性の高い企業からオンラインへの本格投資が始まり、その成果が出始めている。ユニクロの有明PJなどはその最たる例だ。これまで不足していたオンラインユーザー向けの在庫の確保と、配送網の構築、それらと連動したシステムとオペレーション。すべてを内包したぐランドデザインにより、急速に「オンライン供給力」を高めている。

「ネームドリテール(名のある小売)のオンラインにおける台頭」こそ次なる必然だと考えている。何よりロードサイド覇者はRakutenやAmazonに対抗できる。理由はオフラインで獲得した信頼と想起クエリをもっているからだ。ユニクロはファンに「ユニクロ」と検索される。オンライン供給力が飽和するまで、ECは一直線に成長し続けるだろう。

海外ではすでにネームドリテールの逆襲が始まっている。Amazonに対するWalmartが好例だ。Jet.comの買収を期に、「オフラインで培った信頼と流通網」を活用できる体制となったのが大きい。今後この方向性が進むのではないかと考える。Walmartのオンラインにおける台頭は日本の今後の小売を考える上で非常に学びの多い材料であるため、別途余裕があれば掘り下げたい。

US Grocery 各種サービスのユーザー数推移

まとめ

  1. 日本のオンライン小売は「モール・カートASP」を通じて参入するプレイヤーがほとんどである。中でもRakuten、 Amazon、Yahoo!のBig3が全体の43%のシェアを持ち、さらなる寡占化が進んでいる。
  2. 「小売の成長はトラフィックの転換点にエントリーできるかどうかに依存する」というオフラインでの法則は、オンラインでもより強く効いているといえる。「想起クエリ」がトラフィックの源泉の一つであることから、よりスイッチが置きづらい可能性がある。
  3. ただしスマホ普及後のパーソナルメディア化により、新たなトラフィック構造が生まれ、そこでニッチコマースが成立するようになった。トラフィックの変化点を捉えた好例であり、今後も当面伸び続けると推測。
  4. そしてもう一つのトレンドは「ネームドリテールの台頭」になると予測。供給力へ投資が進むにつれて、オフラインで強力な純粋想起を獲得した小売のEC化率が伸びる、というのが今後の日本で起きる流れと推測できる。

次回は本稿を踏まえた上で、「日本におけるOMOの正体はなにか」というテーマについても記事を作成したいと思う。

FACTBOOK

本稿で利用したスライドは以下へ公開してある。

また執筆にあたり、経産省や各社IRページにて公開されているファクトを洗ってGMVや成長率をまとめたスプレッドシートを作成した(所要15時間ほど)。

特に過去20年にわたってファクトを集めるのが思ったより大変だったことと、ECにおいて本質的な価値を示す流通額については各社開示方法を工夫されており、数値を抽出するのに時間がかかった。以下はサンプル。

US Grocery 各種サービスのユーザー数推移

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