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共同創業者

株式会社10Xを創業してからすでに2.5年が経過していますが、最近の環境の変化からか「共同創業者」の重要性について自分の言葉で記したくなりました。
10Xには石川というソフトウェアエンジニア出身の共同創業者がおり、本稿は彼がモデルの記事です。
もしこれを読んでいるあなたが、
  • 何かの大きなプロジェクトに取り組もうとしており、
  • 共同創業者の候補が存在し、
  • だけどどこかで迷う点があるのなら、
この記事を共有し、膝を詰めてお互いの論点を話し合ってもらえたりすると良いのかなと思います。
そういうシーンを想定し、書いています。

共同創業者は重要か

何よりも重要」という以外に言葉をもちません。
あくまで自分の経験からですが、プロダクトや事業領域、タイミングなどよりも遥かに重要と位置づけています。
米国のEarly Stage VCであるFirst Roundの調査によると、共同創業者がいるスタートアップはソロの創業者と比較して163%パフォーマンスが高く、25%時価総額が高いそうです。
 
ただしそういった「何歩かを踏み出したあとにわかるファクト」よりも、
  • 誰もが反対するアイデアにチャレンジするときの初めの賛同者であり、
  • 初めのコワーカーであり、
  • 初めに自分に賭けてくれる第3者であり、
  • 自分の誤りを細かに気づかせてくれるコーチでもある、
という「一歩目の伴走者」であることに、言い表すことのできないほどの意味があります。
共同創業者の石川は僕が人生で最も敬意を持つ一人であり、自分に最も大きな影響を与えている一人です。

誓約をする

創業の前後に、初めにしたことは期待値を誓約することでした。
僕は「スペシャリストでありながら、経営者であること」を要求し、石川もこれに同意し、そして現在に至るまでお互いがそれを守っていると思います。
故に彼はCTOでありつつ、取締役というポジションに就いています。
この誓約は大きく4つの要素から成っています。

1/成功のために、役割を変え続けることができ、その度に学び直すことができる

創業者の役割はチームの構成や、事業の進捗に大きく影響を受け、次々と変化します。
それがいつ来るかも見通しづらく、役割自体が不確実性を孕んでいるのが「職業」との圧倒的な違いだと考えています。
唯一明らかなのは「事業・会社を前にすすめる上で一番のボトルネックは自分たちが解なくてはいけない」ということです。
「今得意なこと」ではなく「これから必要なこと」を明確にし、なんとかするというアニマルさ。
このアニマルな資質を持っているかどうかは、一緒に何かのプロジェクトを進めてみないとよくわかりません。
前職の同僚だった石川は、誰からも認められる「優秀なモバイルエンジニア」でした。
他方で同時にユーザーの体験や組織のあり方についてもいつも鋭い考えをもっており、「良いモノを提供するには、多くを良くしないといけない」という姿勢が明らかでした。
創業後も彼は多くを学んでおり、今では自らユーザーインタビューにでかけ、CRMの施策を考え、クライアントの問題を深く分析し、プロダクトをマネジメントし、採用に動いています。
未だにトップクラスのエンジニアでありながら、その枠を軽々と超えたのも、「事業を前に進めたい、成功させたい」という鬼気迫るコミットメントからだと感じます。

2/企業のゴールが個人のゴールと一致している

鬼気迫るコミットメントは決して自然と沸き起こるものではなく、「起こるべくして起こる」ものだと思います。
では、どこから来るか。
それは「自身が取り組むプロジェクトのゴールが、個人のゴールと一致しているかどうか」です。
構造が全て、と考えています。
そしてゴールは個人の中にも複数あるはずです。
誰かの描いた世界の構築をサポートしたいのか 自らのプロダクトと理想を創りたいのか
誰かの価値観で集まった人と働きたいのか 極めて近い価値観の人と働きたいのか
誰かの意思決定に従いたいのか 自分の意思決定で動きたいのか
安定的に働いて平均的に稼ぎたいのか リスクを取って桁の違う報酬へチャレンジしたいのか
「スタートアップを起業する」とは、こういった問いに対しすべて後者をとることです
少なくとも共同創業者に関しては、後者が「個人の幸福」につながることを明確にしないといけません。
僕が石川を誘うときに行ったことは、上記のような論点でのリスクと期待リターンを明確にし、比較と選択をしやすくすることでした。
その上で意思決定に委ねたのですが、結果として二人でプロジェクトを始めることに成功しました。
現在はフルタイムメンバー全員に対し、「企業のゴールが個人のゴールと一致している」状態を創れるよう、組織・ガバナンスデザインに配慮しています。

3/自分にない突き抜けたスキルをもち、他方で自分がその補完となる関係にある

というのは数学界での常識ですが、仕事においては1のパフォーマンスを発揮し、それを足し合わせる、という単純なことが非常に難しいものです。
を達成するには同じところを目指しつつ、スキルが異なる共同創業者が必須になります。
プロダクトマネジメントやスタートアップ経営の経験があった自分と、長期仕様の議論から実装までをカバーするスキルのあった石川は、良い補完関係にありました。
スキルが別の場合の良い点はもう一つあります。
お互いの学びが加速することです。
創業期からアプリのUIデザインは僕がラフを担当し、実装の段で石川が調整を加えていました。UIデザイナーの職務をシェアしてたことになります。
当時の自分のスキルは驚くほど低く、システムの構成についての理解も乏しいものだったため、「ユーザーの問題は解けそうだけどクソダサくて触りたくない」みたいなUIを量産していました。
しかし「iOSのガイドラインではこうすすべき」「ここはクライアント(App)で処理するからレスポンス待ちは発生しない」といった彼の専門性に則したフィードバックをもらうことで、遥かに良いデザインが出来るようになりました。

4/はじめの相談相手となる

一歩目の伴走者」の価値は先に述べたとおりですが、もう一つ、意見を安心して対立させられる、という点も非常に重要です。
特に僕と石川はよくHowの部分で意見が割れます。
割れるときは「それぞれに重要なボールがあるが、お互いに上手く伝わっていないケース」だというのが最近わかってきました。
距離が近く、細かにフィードバックを掛け合える関係がないと、この隠れたボールは見つからず、何かを犠牲にしたトレードオフの意思決定をしてしまいます。
しかし多くのことはトレードオフなどではなく、両立するデザインが可能です。見えていないだけなのです。
「はじめの相談相手」がいることで、このトレードオフ理論を回避しやすくなります。

社員とも共同創業者のような関係を築く

共同創業者との関係は、そのまま社員との関係を構築する際に役立ちます。
というより、共同創業者との関係を拡張した形にしか、チームは組成できないです。
一人ひとりへ期待値を明確にし、リスクとリターンを説明し(ガバナンスも設計し)、足りないものはお互いに学び、ゴールが一致するかを確認し、細かに相談を重ねる。
書いてみれば当たり前のことです。
これらは共同創業者との向き合い初めたDay1にもつ姿勢が全てを決めているように思います。

よく共同創業は結婚に例えられるが違うもの

僕は10年近く連れ添った妻がいますが、彼女と石川が自分に対して同じ影響を及ぼしているようには全く思いません。
むしろ真逆です。
起業家にとっての「家庭のパートナー」、というのはそれだけで1つの記事をかけそうなアジェンダで、ここでは触れません。
ただ繰り返しになりますが、全く違うと個人的には思っています。

さいごに: 共同創業者についてアドバイスをくれたチーム

実は起業前に何名かの先輩に話を聞いたのですが、
こと「共同創業者」を考えるにあたって最も参考になったのは元コネヒト創業者である大湯さんと島田さんの関係でした。
彼ら二人はCEOとCTO、ボケとツッコミ、アクセルとブレーキと言った補完の関係を長年維持しており、身近な成功例として見ていました。
起業直前、大湯さんがくれたアドバイスは以下のようなものです。
CTOを誘うときに「私はエンジニアではなく経営者として君と一緒にやりたい」という期待値を明確にしたのがよかった。それが会ったから、自分たちも少し言いにくいことを言い合ったり、困ったときに一番初めに相談するような関係を維持してこれた。別にプライベートで仲が良いわけではない。でも大きいゴールを目指す中で、結果的にそれが一番重要だった。
この一言が「共同創業者」についての自分の考えの種となっています。
何か迷っている人は、彼らのような、上手くいっている共同創業チームに一緒に話を聞きに行くと良いかもしれません。
なお、大湯・島田の両名はコネヒト社を退任後も二人で起業をすることを決め、それぞれに・ときには一緒にアイデアを練るための世界旅行へ繰り出しています。仲いいじゃん。