タベリーからStailerへ

この記事は、2019年5月に発表したタベリー「オンライン注文機能」と2020年5月に発表した「Stailer」という2つのプロダクトの間を埋めるために書いている。約1年の間に、10Xは何を目指し、何をしてきたのか。できるだけ要旨に絞って伝えられればと思う。

※なお文中の「10X」は社名を、「10x」は十倍、非連続を意味します。

タベリー「注文機能」が生まれた背景

10xを創る = ユーザー体験に10倍良い(≒ 非連続な)体験を提供する、というのが会社のスタートであり、現在に至るまで一貫したミッションである。初めに創ってきたプロダクトが献立アプリ「タベリー」だった。

2019年5月に発表したタベリー「オンライン注文機能」は「普通にやったら無理」をなんとかする形で生まれた10X社らしい発明だった。

献立から逆算して必要な食品をシームレスに注文できるようにする。 文字にすると簡単で、類似したアイデアは溢れていても(特許だけでも類似したものが複数存在した)、実現している例はグローバルでもなかった。ところが我々のリリース後、2019年後半にかけてグローバルでいくつか事例が生まれた。先鞭をつけられたのは誇らしい。

10Xが開発に着手したのはおよそ2018年9月頃のことだったと思う。スタートはだいたい自分の無茶振りからなのだが、うちのプロダクトチームは恐ろしくR&Dがうまい。僕が解決したいイシューを伝えると、「それは10xだ!」となり3日後にはソフトウェアエンジニアの沢田さんが「雑でも動くもの」をつくっていた…(驚愕し、興奮した)。

この世に類似するものが存在しないとき、「実装の不確実性」が極めて大きい。動くものを創る道筋をつけられるかどうかは大きな能力であり、このときに創ってくれたデモがその後の資金調達や、事業計画を考える上でどれだけ助けになったかわからない。

当時のPitchDeck

当時のPitchDeck

日本ではコープ(e-フレンズ等)やネットスーパーなど食品ECプレイヤーは多数存在するが、図に示したような連携をシームレスにできる環境はなかった。

サーバーは店舗を軸に構築されており負荷や変化に弱く、データベースは煩雑で膨大、なにより「カートに商品を追加する」「決済する」といったECのコアアクションをAPIから操作するアーキテクチャを構築できているところはどこにもない。デジタル専任のチームを保有している企業も稀であった。

実は「献立から逆算して食品をシームレスに購入する」というアイデア自体は2017年の創業期からあったもので、そのときは正攻法で事業開発を進めていた。小売流通企業からAPIを提供してもらうことでプロダクトへ落とし込もうとトライしていたのだ。実際に2017年7月にはそういったミーティングを実施していた記録も残っている。が、「おそらく十年待っても実現することは難しそう」と記されている。

無理なら、自分たちでなんとかするしかない。2つの大きな技術的意思決定をし、開発を進めることにした。

一つはあらゆるネットスーパーの商品データを10Xの中に同期し続ける仕組みを創ること。もう一つは各ネットスーパーへ必要な処理を代行するサイトコントローラーを開発すること。

これらにより、小売流通企業の外部からネットスーパー DB/APIを創ってしまうことを決めた。

この2つの意思決定とプロダクト開発は10Xらしさが詰まっている。技術的にも難しいチャレンジを「普通のプロダクト」のように実装してしまう10Xのソフトウェアエンジニアのチームには本当に強い誇りを持っている。別途、社内のソフトウェアエンジニア目線からの発信もできればと思う。

加えて、当然ながら小売流通企業各社の利用規約やプライバシーポリシーに抵触しない形を担保する形をとる必要があり、そのためのリーガルR&Dやプロダクトへの緻密で泥臭い反映が必要だったことも付け加えておきたい。

こうして生まれた「オンライン注文機能」はユーザーに驚きをもって受け入れられた。一度使ってくれたユーザーのリピート率は想定よりも高く、SNSでの口コミがバズったりした。

もちろん良いことばかりではなくリリース後は「どうやったら10xできるのか」を探る苦しさとの格闘だったが…。それについては社内のドキュメントに閉じておきたいと思う。

「うちに創ってくれませんか」

8ヶ月をかけて開発した「オンライン注文機能」をリリースする1−2週間前、APIを開発した小売流通企業へコンタクトをとった。リリース前に念の為に確認を取るためだ。

そのミーティングでは以下を伝えた。

  1. ネットスーパーの未来に賭けている。同時に最も変化が必要なのは「ネットスーパー」であること(夢)
  2. 外部から操作できるAPIとDBを構築したこと(基盤)
  3. これによってタベリーでシームレスな顧客体験を実現したこと(UX)

一通り話し終えたあとの初めの反応は「混乱」だった。次いでセキュリティの面で細かな質問が矢継ぎ早に飛んでくる。すべて問題がない旨回答する。最後に10Xが目指していることは何かと聞かれる。ここまでがワンセット。

このセットが終わると、最後に「こういうものを過去10年間創りたかった、しかし、できなかった。別途契約への落とし込みを行いましょう。」という反応が常だった。

こうして無事、オンライン注文機能は各社からの承認を得てリリースに至ったのだが、事業開発としての本番はこの後だった。リリース後、各社の内部で日に日に10Xが創ったものとその将来への期待が高まったらしい。

また提携していない小売流通企業からの連絡も絶えなくなった。1ヶ月もすると自分のスケジュールは彼らとのミーティングのリクエストでパンパンになった。

各社とのミーティングは月1回から週3回になり、場所は会議室からコーヒールームに変わり、Slackを開設してネットスーパーは今後どうするべきなのか、毎日チャットをするようになった。頻度を重ねるにつれて信頼が積み上がっていくのを感じ、彼らが抱えている課題の解像度が上がり(詳細はCulture Deckへ)、その解決方法を議論するうちに理想が一致していくのがわかった。

こうして小売流通企業と関係を構築し始めて5ヶ月ほど経った頃。ある企業の責任者から以下のように告げられた。

「弊社のトップに、ネットスーパーの今後と自社のとるべき戦略を伝えてくれませんか。そして、10Xのプロダクトをうちに創ってくれませんか」

初めのミーティングで伝えた「夢、基盤、UX」のすべてを「ほしい」と言われた瞬間だった。

自分自身は事業開発のキャリアが長いわけではない。また市井の人の生活を支えるプロダクトを志向していたことから、10XとしてはtoC向けを志向しており、企業向けのプロダクトを自分が構築するとは微塵も考えていなかった。

しかし10xなユーザー体験を目指す上で、真に理想の状態は何か。ネットスーパーというモノが動く世界においては、サプライチェーンの「全て」をデジタルに載せ替えていくこと以外に、10xなユーザー体験を生み出すことは不可能だ。

小売の未来と、10Xの目指す世界と強み、そしてユーザー体験。

全てを一本の直線上にアラインし、全員がWinできる事業を創る。タベリーのオンライン注文機能からスタートしたトライは、パートナーを得て大きな構想へ昇華させていくこととなった。

ネットスーパーを自分たちで創ってみた

2019年の夏、小売流通企業との事業開発を進めるのと並行し、社内ではもう一つのプロジェクトを走らせていた。

「10X自身が完全にコントロールできるサプライチェーンを構築する方が、早く/理想のネットスーパーをスケールできるのではないか?」

この創業来の仮説を検証するため、仕入れ網・ピック&パック倉庫・ラストマイル配送と自社でアセットを抱えて食品を販売する実験を行った。

この背景にはオンライン注文機能で解決できなかった課題へのアプローチという側面もある。タベリー上でオンライン注文を行おうとすると、ユーザーは各社の会員登録を求められる。その重さから、初回利用のハードルの高さが課題だった。またビジネス上のTake Rate%を伸ばすためにも自社で粗利をコントロールする必要があるといったビジネス上の要求もあった。

このプロジェクトは「タベクル」と名付けられ、半年間かけて実際にサプライチェーンを構築した。そして数週間のβテストを経て、クローズした。

わかったこと。ゼロからサプライアセットをもつことは恐ろしく大変だった

これらに一定の答えをつけてリリースするだけでも難しかった。しかしタベクルというプロジェクトの問題はサプライの構築・スケールの難しさ以上に、「顧客のジョブからスタートしていなかった」ことだった。

誰が、いつ、どんなときに使い、どんなジョブを置き換えるのか。10Xのプロダクトづくりの根幹から逸れた形でのスタートを切った時点で、このプロジェクトの失敗は決まっていたのかもしれない。それはユーザー獲得ができない、という形できっちり顕在化された。

サービスを届けようと思っても、「毎日口に入れるもの」を「名もなき会社」から買うような理由は作れなかった。ユーザーは信頼を口にしていたのだ。

また十分な信頼やユーザー体験へ磨き込むには身の丈を超えたサプライチェーンへの投資が必要。こういったストレートな勝負は10Xのとるべき道ではないと経験をもって判断できた。判断軸という、一つの濃い境界線を引くことができたのは大きな進歩でもある。

タベクルは改めて初心に帰るきっかけとなった。絶対に、何があろうと、10Xだけが知っているN=1の事実からスタートする。そして10xなレバレッジを狙える針の穴を狙う。そして我々はどこまでも普通ではない、「非連続性」で戦う必要がある。タベリーがそうだったように。

タベクルの1コマ

当時の泥臭い画像。このプロジェクトは入社前の二人(濱坂さん、赤木さん)が頑張ってくれた。二人にとっては人生初めての新規事業をあっさりクローズされて驚きだったことでしょう笑。

Stailer - ハウルの動く城を置き換える

タベリーのオンライン注文機能・小売流通企業へのDeep Dive・サプライチェーン構築のチャレンジ。これらを咀嚼することで、10Xにとっては「戦略の与件」が浮かび上がってきた。

この3つを踏まえ、10xを狙って着手したのが「Stailer」である。

まずユーザーにとっての価値はシンプルにUXである。

次いで小売流通企業にとっては、開発不要でネットスーパーを垂直立ち上げし、最適なチャネルを持てること。それにより、戦略と実装を一致できるようになる。

10Xから見ると、巨大なサプライチェーンを借りながら、戦略/ソフトウェアの得意領域で戦えるようになる。

お互いが補完の関係であり、ネットスーパー市場成長そのものに賭けていくことができるプロダクト だ。

Stailer

Stailerはプライシングも重要な要素だった。プロダクトやデータはすべて10Xの保有物となり、初期費用がかからず、リーズナブルな月額費用とレベニューシェアで構成される。

通常、エンタープライズ向けのソフトウェアはSIerによる売り切りモデルや、固定費モデルが多い。しかし、これはエンドユーザー向けのソフトウェアと恐ろしく相性が悪い。

エンドユーザー向けのソフトウェアは強烈な不確実性を内包する。

変わりゆくペインを射止め続けるイテレーションによってしかユーザー価値は生まれない。しかし売り切りや固定費の関係はそのリスクがエンタープライズ側へ偏る。売れば儲かるSIerと、買ってもユーザーに使われなければ儲からず、自社では変更ができない小売流通企業。ニコラス・タレブの言葉を借りるなら、「全員が身銭を切った」状態ではなく、利害が同じ方向にアラインしない。

Stailerはこのガバナンスも解決する。初期開発費は一切を10Xが負担しリスクを取る。開発したものがユーザーに愛されなかったら10Xにインセンティブは入らない。代わりに10Xの責任と権限でグロースへ全力でコミットする。そういう「あるべきガバナンスへの意志」がプライシングに込めている。

決してこのプライシングは新しいものではない。Shopifyも同じだろう。しかし、ハウルの動く城のように「複雑化し、ブラックボックスだが動いているソフトウェア」 がエンタープライズにはあるものだ。Stailerはこの問題を吸収し、APIを外部から構築することで、レガシーの置き換えを可能にする。

ハウル

10Xが賭ける「次の10年」

スタートアップとは「どの波に賭けるか」という仮説が最もシャープでなければならない。うまく行けば成功するし、ダメなら別の大きな賭けをする必要がある。

10Xが賭けている仮説は至ってシンプルで、「日本でもスーパーがオンライン化する」というものだ。決して生鮮食品流通のデジタル化ではない。

ネットスーパーが次の10年で最重要な社会インフラだと捉えている。それはスーパーだけが「豊富なSKUでワンストップショッピングを提供する」というユーザー便益を提供しうるからだ。そしてワンストップショッピングのデジタル化には非連続なジャンプが必要で、市場のために10Xがその役割を担えると考えている。

日本の食品の流通額は64兆円と極めて巨大だ。特に最大のチャネルはスーパー(13兆円)であり、デジタルで流通しているのは1%程度だ。EC大国・韓国では10%近くがデジタルで流通している。

タベリーは「食卓に並ぶ献立をどうするか」というユーザー体験のIssueから始まった。そしてサプライチェーンとの連結を試みる中で、小売流通企業のIssueを知り、そしてサプライチェーン構築の難しさを知った。

今10Xにできる市場への最大限の貢献がStailerだ。複雑なシステムを替え、ユーザー体験を替え、日本にネットスーパーというインフラを揃えたい。

2020年、COVID-19の感染拡大により改めて人々がスーパーという社会インフラと向き直す機会が来た。接触をできるだけ最小化したいという需要の大波がきている。社会のため、大義のためにこの事業が必要だと考え取り組んでいる。ネットスーパーのインフラを創る。10Xはこれに次の10年を賭けていく。

※敬愛する LayerX fukkyy氏のタイトル「 LayerXが賭ける「次の10年」」をサンプリングしました

最後に

10XはStailer拡大のため、絶賛採用中です。9職種19名の採用をオープンしています。ぜひCulture Deck及び採用ページを御覧ください。

またこの拙文を読んでいただいた小売流通企業の方へ、ぜひ一緒にネットスーパーの未来を一緒につくりたいと思っています。コンタクトフォームより、ぜひご連絡ください。