Moatについての私の考え

以下の平田さんのツイートを機に、Moatについての今の自分の考えについて軽く記載したいと思います。
このツイートを見てまず思い出したのは、「参入障壁の強弱とは年数とコストの2要素で定義できる」というカンムCEO八巻さんの以下のツイートです。このツイートはスレッド形式になっているのでぜひ全体を眺めてみて下さい。
そしてもう一つはDCM Ventures原さんの以下のnoteです。
 
〜余談〜
2018年に原さんが自分にコンタクトをとってきてお会いして以来、一緒にスタートアップとしての階段を登ってきた感覚があります。
 
ラウンドのたびに彼が10Xに問い続けてきたもの。それが「Moatは何か?」でありその問を考えることを通じて私自身のプロダクトマネージャー、BizDev、組織オーナー、オペレーションコンダクター、経営者、起業家などの様々な面が学習を促されてきました。この話はまたどこかで時間をとってコンテンツにしましょう。
〜余談終〜

Moatについて私の考え

本題に戻り、Moatについての矢本の今の考えを書きます。
 
まずMoatの必要性についてはもはや議論の余地がないでしょう。スタートアップはプロダクトを創るゲームではありません。耐久性と新規性が高い、長期的にスケールするビジネスを創るというルールのゲームです。このルールにおいてはMoatの構築はマスト事項です。
 
そしてMoatの要素は原さんの記事にある通り「複数の要素の、複雑な組み合わせ」により、どんな事業においてもそれを一言で表すことはできないと考えています。
 
私達が提供するStailer事業の場合は何でしょうか。パートナーネットワーク、システムのネットワーク効果、コスト優位性、Capexの厚さ、ユーザーディストリビューションなどいくつかが考えられますが、どれが一番のMoatかと問われると明快な答えを返すのは難しいと感じます。
 
またMoatを築いた結果得られるものが「X億円Y年」というエントリーコストであるという八巻さんの記述にも頷けるものがあります。しかしここに一つエッセンスを加えたいと思います。それは市場エントリーにとっての「ゴールデンタイム」という考え方です。
 
どんな事業においても「市場へエントリーするタイミング」は成否を左右する大きな要素です。例えば2021年現在、日本国内において「完全自動運転の電気自動車」を市場へ投下したとしても事業としての成長は思ったほど望めないのではないでしょうか。それは規制やインフラの整備が追いつかず、「波」を得ることができないからです。これらは「いつかは来て、当たり前になる未来」だと信じていますが、そこへBETしたときに成長できる期間というのは限られているはずです。早すぎればリソースを過剰に喰い、遅ければ得られるシェアは小さいものになるでしょう。
 
エントリーと同時に高い成長率や高いシェアを狙える限定的なウィンドウ。これがゴールデンタイムだと思っています。どんなプロダクトもこのゴールデンタイムに、適切な品質で投下できなければ多くは得られないという考え方です。
 
翻るとMoatというのは「エントリーを防止するもの」にはなりえません。どんなMoatもお金と時間を適切にかければ再現できてしまうという前提に立っています。だからこそMoatの真の目的とは「ゴールデンタイムの競合エントリーをできるだけ遠ざける」ことであり、重要なのは「タイミング」ではないか、というのが今の私の考えです。
 
いつ、どのタイミングで、どの程度のコストを要するMoatを構築するか。そのために世の中に自分たちが出ていく段階で、どの程度の準備をステルス下に進めておくか。こういった論点が重要ではないかと考えているこの頃です。なおこの考えはアップデートされ続けるでしょう。
Moatは経営者だけでなく、プロダクトマネージャーや経営企画などさまざまなポジションの人が扱える極めて重要な論点です。このコンテンツがぜひ議論のお供になれば嬉しいです。