起業後の失敗について教えて下さい

頂いた以下の質問についての回答を記載したいと思います。
起業後の失敗について教えてください。できればスティラーになる前の期間でお聞きできると嬉しいです。実験を繰り返し、不確実を取り除いていくというマインドセットのため小さな失敗は繰り返しされていると思います。なので、レイヤーが高めの、大きな失敗 (ある種インパクトのあった失敗)と、そこから何を学び、何を改善したか、をお聞きしてみたいです。参考としましては、以外リンクのレイヤーX福島さんのような粒度で、具体例込みでお聞きできると嬉しいです!(おこがましくてすみません。) https://signal.diamond.jp/articles/-/56

起業後の失敗について

失敗の定義が難しいな、と思っていますが学びが得られた大きさトップ3で書きますね!
  1. 1つの価値のあるリリース >>> たくさんの早いリリース
  1. マネタイズの検証は早いほうが良い (特に日本では)
  1. 大きなテーマ以外に賭けている時間はない

1. 1つの価値のあるリリース >>> たくさんの早いリリース

タベリーについてはリリース前にかなりの検証を重ねてリリースをしたものの、かなり新規性が高いプロダクトをスクラッチで作ったため次に何から検証していくべきか初期は悩みました。リテンションやファネルなどを突き詰めていくべきか、それとも本当に十分なUXに達するための機能改善や追加からしていくべきかなど。
 
ところがプレスリリースがバズってしまい、1日で数万人のユーザーが入ってきたため、更にノイズが増しました。
 
これに影響された結果としてシャープな検証より波に乗ってユーザーを増やすことを優先し、iOSだけでの提供からAnroidを早期に構築して提供する意思決定を下していました。正直これはミスだったと思います(後日、チームにもそのように伝えました)。
すぐにAndroidを提供して増えたのは、リテンションの高くない状態でユーザーを2x獲得できるようになったのみでした。その後、改めてプロダクトのファネルとリテンションに集中するなかでIssue Analysisを元に膨大な施策を打ちましたが、その中で本当に大きな効果があったのは2つだけでした。オンボーディングのシンプル化と、レシピ推薦のアルゴリズムのチューニングです。結局100のうち、この2つだけを早くやっていればもっと本質的なUXの向上ができたのに、と学びが大きかったです。

2. マネタイズの検証は早いほうが良い (特に日本では)

C向けのプロダクトは、「ユーザーがたくさんつけば広告でも課金でもマネタイズは検討できる」というのがGoogle やFacebook を引き合いにしてよく言われていることでしたが、日本国内を対象としたプロダクトという制約下では、個人的に極めて懐疑的です。
 
起業前から懐疑的でしたが、経験を通じてよりそう思うようになりました。前述のUSスタートアップ的なロジックというのはあくまでGlobalなユーザーを対象とするときに得られるスケール感をベースに成立するものだと考えています。
 
国内を対象とするサービスはせいぜいMAU数千万が当然の限度となります。億DAUがゴロゴロしている海外プロダクトと比較すると極めてポテンシャルが小さくなります。
 
このユーザーに対して広告・メディア課金などはARPUが極めて低く上げづらいため、これらは検証するまでもなくTAMが小さくなってしまいます。つまり国内対象のプロダクトで、スタートアップらしい非連続なマネタイズを考える、検証するためにはどういう資金の流れに入り込むかの解像度を高くもつ必要があり、そのための真の検証が早期に必要です。
 
タベリーもリリースから1ヶ月程度は広告も貼っていたし、課金プランも頑張って用意していました。ここから得た学びは「大きくなれない」という想定内の事実のみでした。これに気づいたことで、この2つの機能は早々に捨てる事となりました。
 
今思えばやらなくてよかった検証だし、これがなければリリースは数週間早くできたなと思っています。他方でこの学びを通じて、「最も大きな財布 ≒ 食費」へアプローチするという腹が決まったことも事実です。マネタイズの検証が早くて悪いことなど無い、と思った経験でした。

3. 大きなテーマ以外に賭けている時間はない

1と2から自明ですが、どんな仮説もほとんどは検証して学びを得て研いでいくことになります。それはたとえば「小さく思える仮説」も「大きな仮説」も等しく必要なプロセスです。
感覚として、仮説の大小とかかる検証コストはリニアではありません。どちらにも下限としては同じだけコストがかかり、差は上限のみ、というのが実感値に近いです。
他方で時間ややる気、エネルギーといったリソースは有限です。となれば常に「自分が挑める最も大きなテーマ」以外にわき目を振る余裕はないのだと思います。
10Xはスクショケシという遊びのプロダクトや、リリースしなかったタベリーコンシェルジュというプロダクト、冷蔵庫の試作プロジェクトなど実はいろんなプロダクトにチャレンジしていますが、これらは今も挑んでいる「小売体験を10xする」というイシューと比較すると小さかったり、内包されるサブイシューの一つに過ぎなかったりします。リソースの少ないスタートアップはメインイシューに全振りする以外の選択肢はあってはいけないのだと学びました。仮にもう一度起業するなら初めからメインイシューにフルスイングするでしょう。
他方でタベクルというクローズした自社配送プロジェクトはこのイシューを大きく試したもので、プロジェクトは閉じましたが大きな学びがあり、良いチャレンジだったと思います。やるなら大きく。です。