The COO person is here

このポストは2021/03/30 公開の ZeroTopic Podcast #148 The COO person is here (ゲスト:ラクスル取締役COO福島さん)の書き起こしです。特に人気の会でした。
 
 
この収録は僕の公開メンタリングのような時間で、自分にとっては学びの宝庫でした。他領域のBizDevのマネジメントから、経営と執行分離はどう考えるか、など奥の深いテーマを扱いました。前後編の前編になります。
 
スピーカー
 

Intro

矢本:今回はラクスルCOOの(福島)広造さんに来ていただきました。広造さん、よろしくお願いします。
福島:よろしくお願いします。楽しみにしてました。
矢本:いやこちらこそです。もう本当に出ていただくのは恐縮なような方に。
福島:とんでもない(笑)
矢本:「BizDev業界といえば、福島広造ここにあり」みたいなとこあるじゃないですか。
福島:それも2年半前ぐらいとか3年前に始めた頃の取り組みがようやく浸透してきたという感覚なので、すごくNewな話ですよね。3年前は全くそういうことなかったので。でもそういう浸透しているのは、すごく良かったなと思ってます。
矢本:BizDevというか、いわゆるスタートアップのProductLedGrowthでないモデルというか、シンプルにProductLedGrowthでなくてもう少し総合格闘技というか。昨今、いろんなビジネスレバーを使って事業を成長させていくというモデルが、自然的な流れで増えてきたのかなと思っていて。
その意味でも、先駆者である広造さんにお話聞けるのは超ありがたい限りです。
簡単に自己紹介を3分ぐらいでお願いしてもいいですか。

電脳隊から始まったスタートアップとの関わりと20年間

1:11 ~
福島:福島広造と申します。
スタートアップ、特にBusinessDevelopmentという観点で振り返ると、学生のとき、ITバブル前の2000年前くらいに起業家を目指していて。
その時に、今ヤフー/Zホールディングの代表をされてる川邊さんが立ち上げられた電脳隊という会社で、実はJavaのプログラマーとしてアルバイトしてました。というのが多分スタートアップの一歩目です。
そこから1年半ぐらいプログラマーのアルバイトをしていたんですけど、その中で電脳隊がヤフーに買収されたり、その後ITバブル崩壊したり。その当時ミクシィの笠原さんの企画でシリコンバレーに連れてってもらったり。そういう、かなり初期的なスタートアップのアーリーステージというのを経験したってのが学生時代ですね。
その後2015年にラクスルにジョインしました。
ラクスルはその時30人規模30億ぐらいのフェーズだったので、電脳隊がEXITした後のフェーズくらいのところで入って、今は300億,300人みたいな形に。まさに10Xをここ5,6年で経験したという形になってます。
ラクスルの特徴としては印刷事業(=ラクスル)で始まって、広告(=ノバセル)・物流(=ハコベル)に。今はダンボールワンという梱包材。4つぐらいの事業ポートフォリオを立ち上げてきたというのが特徴かなと思っています。
そういう20年ぐらいのスタートアップの歴史観と各事業がゼロイチから100億、印刷事業でいうと200億ぐらいなってきたというこのフェーズと、産業・事業ごとによる違いみたいな時間軸とか事業特性とかフェーズ感みたいな、そういうお話ができたらなという風に思っています。よろしくお願いします。
矢本:お願いします。素晴らしい前フリだったんですけど、電脳隊でアルバイトしてたって初耳でした(笑)
福島:学生時代、起業家を目指していたのですが、そのときはまだそんなに流行ってもいなかったので、学生起業家たちは青学とか含めて各大学が1個のサークルでやっていて。その起業家サークルの代表が川邊さんだったんですよね。
そこに入学とともに入って。そうしたら、「じゃあまあバイトしてみる?雰囲気感じてみる?」みたいな感じで、電脳隊に入らせてもらって。
その時はまだ電脳隊は恵比寿にあって、皆さん寝袋で寝てたみたいな時代でした。何の貢献もしなかったんですが、その場にいたとか、その場にいた方々がその後めちゃくちゃ活躍されてるので、成長感とかダイナミズムみたいなものをすごく感じる機会としてはすごく良かったなと思ってます。
矢本:広造さんのキャリアサマリを見ると、ITコンサル→ザ・戦略コンサル→ラクスルみたいな書かれ方してるじゃないですか。
なので、スタートアップとの接点が全然わからなかったんですけど、実はすごい一番生々しいところに原体験があったんですね。
福島:そうですね。スタートアップで起業しようと思って、電脳隊に入ってシリコンバレーに行って、「もう行くぞ!」というときにITバブルがはじけて、周りの起業家たちがみんないなくなっていくみたいな(笑)
その中で、電脳隊は結局Yahooに買収されていく。そういった流れの中で、スタートアップが大企業というかエスタブリッシュに買われていくという世界もあるんだなって感じて。特にシリコンバレーに行ったときに、CiscoのStrategyHeadみたいな人とセッションがあって。Ciscoのストラテジーは「どんどん出てくるスタートアップをポートフォリオに組み込んでいく」みたいな形が1つの戦略だっておっしゃっていて。
"起業して全部1兆円企業までやり切る" みたいな、そういうOneWayな感じが日本のスタートアップのデフォルトというか標準になっている中で、フェーズごとにバトンが渡っていくような仕組みなりエコシステムというのが、未来系というか、あるべき姿なんだろうなという。
なので色々なフェーズを考えるとか、エスタブリッシュ側からスタートアップを見てみるみたいな、そういうチャレンジ・視点の変化というのをやってきたという20年ぐらいでしたね。

3つのフェーズによって成長したラクスル

6:06~
矢本:この話めちゃくちゃ今のラクスルの話にリンクができそうですね。ちょっと後の方で触れさせてください。
早速なんですけど、これに先立って、改めて広造さんが出ているメディアの記事を全部読んで参りまして。
最近HERPの方とお話されてた『COOの仕事の流儀』という多分去年の記事かな。(その中での)すごい良い一節があって、「フェーズを3つに分けてラクスルは進んできた」みたいな。COO仕事の流儀 ラクスル 福島 広造  COOは「未完の世界遺産」を築く仕事人 - HERP LAB.
この3つのフェーズを改めてお聞きしてもいいですか。
福島:1個目が、まず印刷のラクスルというところ。1つの事業を経営チームで伸ばすという形。Founder/CEOの松本が事業全体を見て、CMO田部がグロースを見て、泉がCTOで入ってきて、永見がCFOでファイナンスを見る。私自身はその他、主にSCMとかオペレーションとかを見る。完全な役割分担型でグロースさせていくというのがフェーズ1。
ここで(売上)150億とかまでいった。上場のときの大きな事業の柱というのを作りきったというのがフェーズ1です。
そこから事業の横展開というのがフェーズ2。
1個目はハコベルという物流事業をFounder(松本氏)が立ち上げていく。直近でいくと広告事業をCMO田部が立ち上げ、残りの印刷事業を私が見るという体制で3事業の柱を作るという、今の大きな事業帯ができたのがフェーズ2という形になっています。
今はフェーズ3に移行しようと思っていて。
事業としても1人ひとりが立ち上げていくのではなく、もっと仕組みとして、どんどん作り上げていくような形。2つの観点があって、ダンボールワンとかペライチとかM&Aも含めて、複数どんどん立ち上げていくというポートフォリオ化みたいな話。もう1個は経営と執行の分離。
そうしていくと各事業に解像度が持てなくなっていくので、ポートフォリオをマネージする経営チームと1個1個の事業のリーダーシップの執行、という縦横を一旦役割として区分けていくというチャレンジをしているというのが今のラクスルのフェーズ感になってます。

フェーズの変化に伴う不安や負荷

8:55~矢本:なるほど。
このフェーズ1の話って、僕らみたいな小さい会社でもわかりやすいと思うんですよ。スタートアップって、1個の事業にリソースをドカっと入れて勝つみたいな。その中で、ある程度役割分担しながらやりましょうという話(が基本)なので、スッと入ってくる。
ただ、フェーズ1から2に行くときってめちゃくちゃ大変そうだな思って。「え?それできるの?」という結構不安もあるんですよね。そういうとき、経営陣にかかるプレッシャーとか負荷とか、どういう点のトランスフォームが必要だったとか、その辺感情とか含めて何かあったりします?
福島:そうですね。驚きはありましたよね。Founderが祖業の事業じゃない事業に行く、フルコミットしていくという。
そこに対しては(普通は)結構社内でも「Founderは何をやってるんだろう」みたいな話はあると思うんですけど。一方で、ラクスルの場合は、それがビジョンに紐づいてたというところが一番大きくて。別に印刷"業"を変えるんじゃなくて、"産業"を次々と変えていくというビジョンでやっていたので、比較的そこは使命感というか、やらねばならぬという感じだった。
やっぱりFounderの最もすごいところなり、偉大なところなり、稀代なところでいくと、そういう新しい領域に出ていって事業を作っていくという。そこの市場の見立てであったり、立ち上げというのが、圧倒的にラクスルの中でも市場から見ても得意なところだったので、そこをフルレバレッジしていくというのはすごく自然だったかなと思って。
この辺は会社のミッションと個々の強みみたいなところから、比較的そんなに議論なくというか、スッといったかなという感じはしますね。
矢本:でも、それって要は「福島さんが印刷事業とりあえず全部見て」みたいな状態になるってことですよね?
福島:そうですね。私と田部が2人で見てるときから、田部がもう1回広告に行ったときには、私が見るみたいな体制には一旦はなりましたね。
矢本:そういう意味で言うと、チームに受け皿がないと、Founderが「俺ちょっとあの物流やってくるわ」って無理じゃないですか?ある程度逆算して期間も切って準備したのか、突然それが来るのかでいうと、チーム側から見るとどういう見え方なんですか?
福島:それは突然ですね(笑) それこそ、GoGoVan(高高客貨車)という香港のスタートアップが物流をやっていて。すごくこれは筋がいいというので、日本展開をやろうとしたんですけど、そこは折り合わなかったので、自分たちでやるという話になったという感じですね。
矢本:でも、「ウインドウ的にも今やんなきゃいけないから、ちょっと行くわ」という。
福島:そうですね。本当にそういう感じですね。なので全く計画性はないですね。
矢本:そうなんですね。受け構える側としては、準備して待ってるんですか?
 

非連続のための必要条件としての短期と連続

12:10~
福島:いや、そのときはもうサプライズでしかないですよね(笑)
振り返ると2つあって。そういう機会提供が私も含めて人を成長させるという部分はやっぱり一番大きいかなと思ってます。なので整ってやるんじゃなくて、基本的な機会提供をしていくという形というのが大原則あった上で、あとはその堅さですよね。
その時には(ラクスルが)一定、市場のポジションも含めて、比較的に印刷事業が連続のグロースのフェーズに移行していたというのが大きいと思いますね。なのでグロースフェーズとしてのモデルがまだ確立していなかったときにやるというのは、時期尚早だったと思っていて。
一方でFounderの関心がそこから移り始めたこと、深く考えた真因みたいなとこでいくと、あまりそこにリスクだったり、レバーを感じなくなったというところがあるかなと。そういう意味では、「非常にその足元が落ち着いてきた・見える世界になってきた」という中で、より見えない世界にチャレンジしていくという、そういう考え方なのかなと思いますね。
矢本:本当に来るべくして来たというか、一番のトリガーになっているのは、やっぱラクスルの印刷の事業が「もう連続性のある事業に育つことができた。ここから伸ばしていける道筋が見えた。」というのがやっぱり大きいレバーだったんですね。
福島:そう思いますね。ラクスルで連続じゃなくて非連続を起こせる人とか、それをちゃんとやれる人の特徴って、逆説的なんですけど、実は短期の連続をちゃんと仕上げてくれる人なんですよね。
そこが結構仕上がったり自分のアンダーコントロールになってくると、思いっきり非連続にチャレンジしていける。という中でいくと、やっぱり自分たちの短期と連続を堅くモデルにちゃんとし切るというところが、非連続への必要条件みたいな意味合いはおっしゃる通りかなと思います。
矢本:いや、めちゃくちゃ気持ちわかりますね。なんかこっちが不安だと、飛んだところにはなかなか行けないですもんね。
福島:経営・マネジメントになってくると、どちらかというとマインドシェアとか不安感とか、緊急性みたいなものに対してのマネジメントになってくる。それと重要性・長期みたいな対立軸をトレードオフしているときは、必ず短期と緊急性にすべてのプライオリティが寄ってくる。
その中で、トレードオフするんじゃなくて短期および連続に何の懸念もない状態にするしか、長期をなり非連続なりをベットする方法はないという割り切りですね。

組織レベルから見た短期・長期,連続・非連続の重心

15:24~矢本:なるほど、ありがとうございます。
同じ記事の中に、福島さんが 「入社6ヶ月で事業責任者になったが、成果が出なくて3ヶ月で降ろされた」という話があるんですけど、まだラクスルがもう少しやわらかい段階で、連続性のあるモデルを作り切るというところがやりきれなかったとか、いい感じに逆算が効かなかったという感じですか?どういった背景があったんですか?
福島:そうですね。まさに私自身は、どちらかというとナチュラルに「中期的にあるべき」みたいなことを考えるタイプで。その当時立てた事業目標を今でも取っているんですけど、今振り返っても間違ってないんですよね。
マーケをきちんと踏んで、プロダクト開発して、ARPUを上げていく。ネガティブチャーン、いわゆるチャーンを減らしていってクロスセルしていく。という非常に王道な戦略が書いてあるんですよね。別に今考えても間違ってないんですけど。
でも何を間違ったかというと、まさに時間軸なりプライオリティを間違っていて。どれかに絞って6ヶ月で結果を出さなくちゃいけなかったのに、3年のやるべきことみたいなのを3つ並べたという感じになって、6ヶ月後には何の成果も出なかったという感じですね。
そこからの学びは、「6ヶ月何の結果を出しに行くか」。OKRの設定・やりきりは非常に大事だし、そのプライオリティをつけるというのは経営の大事な仕事なのだなというのが1個目。その宿題をこなした上で、長期どこを目指すんだというのを示すというのが2個目。その2つをやらなきゃいけないんだなという話と、それを1人の中でやるというのは極めて難しいんだなと。それが学びだったので、2つできるまではどっちかに必ず寄せるようにしていて。
ちょうど事業部長をクビになったので、その次の6ヶ月は、「短期を全く見ない。P/L責任を負わない。」という風にして、長期のサプライチェーンのあるべき姿にコミットしました。
その時、P/Lを持ってなかったし社内からすると「あの人何やってるんだろう?」という感じだと思うんですけど、そうやってちゃんと潜って、自分として短期にコミットしないで良い状況を作って長期だけにコミットするという。そういう形を作ったというのが、そのときの経験ですね。
矢本:確かに両手で両方やるのは結構難しいですよね。難しいというか、広造さんが無理なら無理なんでしょうね人類には(笑)
福島:なので無理だと一定仮定していて。自分たち、1人・1つの組織は、どっちかにきちんと寄っていくべきと思っている。
全体・社としてとか事業全体としてのトレードオフ、そのバランス長期と短期とか連続と非連続のバランスってのあるにせよ、個・ひとりとか、組織の1個の組織体というように見たときには、非常に明確にどっちにコミットしていく組織なのかというところをはっきりしていく、重心をはっきりしていくってのはすごく大事かなと。
爆速できる形、長期に爆速する人もいれば、短期に爆速する人もいて、ただ走り切れる形に作っていかないといけない。「トレードオフしてください」というのは、「経営してください」みたいな、高尚なお願いなんですけど極めてパフォーマンスが悪い依頼の仕方だと思うので、そこは分けることを意識はしてますね。
矢本:すごいわかるなって思った話が、会社の中で1個あって。僕らもBizDevが、基本的に案件を作って、そこにプロダクトが入っていくというモデルじゃないですか。
BizDevは基本、完全長期に振ってるんですね。だから初めの1,2年ぐらい、そのパートナーからうちは粗利が真っ赤でも全然いいみたいな感じで振り切っているんですけど。
(一方で)プロダクトって、長期を見て、「将来この可能性もあるし、この可能性もあるし、この可能性もあるし…」みたいものを織り込んで作ろうとすると、仕様は決まらないわ、リリーススケジュールは決まらないわ、価値をどこへ出したいかわからないみたいな状態になりやすいので。
プロダクトは結構明確にスコープを切って短期でマネージしていって、BizDevはもう長期に振っていいよと。本当にちょうど最近失敗したなと思って、それでバランスを取るように変えたところがあって。まさにその話を今、聞かされているようでした。
福島:ラクスルは逆で。
マーケは比較的短期の数字に対してビビッドに効いてくるので、比較的短期のP/Lをきちんと持っていて。マーケットプレイスでのプロダクトって比較的効率化とか自動化とかそういうファンダメンタルな強みに立脚するとこが多いので、比較的長期の目的なり時間軸を持ってもらうという。そういう感じで今分けてますね。
矢本:なるほど。事業モデルによって結構バランスのとり方で全然違いそうですね。
福島:そう思いますね。SaaSをラクスルでもチャレンジして、一番驚いたのがまさにマーケティング・プロダクト・オペレーションの使い方というか、レバレッジの仕方が事業モデルによって全然違うんだなという。そこはすごく感じますよね。
矢本:ラクスルにとっての初めてのSaaSというのは?
福島:ハコベルの運送管理の仕組みと、ノバセルのアナリティクスが両方ドンと2つ行ったので。
矢本:なるほど。直近の2,3年でSaaSがいきなり事業としてボンと立ち上がってると。
福島:そうですね。それをマーケットプレイスモデルで思いっきり試しに行ったんで(笑) あれ?全然違うみたいな(笑)

実践的な失敗とリスクコントロール

21:51~
矢本:ラクスルはかなりハイエンドな経営陣が揃ってるじゃないですか。
多分事例の収集とかも相当強そうだし。試してみるとかも相当早い印象がありますけど、それでもやっぱり失敗からの方が学ぶのが早いという文化がある感じですかね?
福島:圧倒的にそうだと思いますね。
逆にすごくインプットをいっぱいもらってやってみて思ったことは、やっぱりフェーズとかモデルが合わないインプットはやってみても全然成果にならないんですよね。それでいくと、なかなかベストフィットなものが来るということもないので、やっぱ大きな方向性は学ぶ前提で、本質的な学びはコケて学ぶというか、落とし穴に落ちて学んでくるということがほとんどだと思いますね。
とはいえ、落とし穴に落ちたことと這い上がり方を共有することで、落ちたときのショックと絶望感からの立ち上がりのスピードみたいのが早まるのかなと思っていて。そういう意味において、社内・社外ともに落ちたことは共有しようと思ってるという感じです。
矢本:なるほど。経営としては落ちたことの共有もそうですけど、失敗のダメージ・許容範囲をコントロールするみたいなのも、結構しっかりやられてるんですか?
福島:そうですね。そっちの方がちゃんとやってる気がしますね。
矢本:やっぱり。それやんなきゃなという気持ちがあるんですよね。
福島:なので、リスクの取り方みたいな概念の方が強いかなという気はしますね。

機会提供による成長とそのための組織構成

23:35~
矢本:多くの場合、そのリスクの取り方って、経営陣に経験とか機会が割と集中しやすいのかという風に思うんですけど。今のその体制というか、事業部長を縦に作っていこうというときには、事業部長のレイヤーがそういった機会をたくさん取れるようにしていくみたいなところで、工夫とか何かケアしたポイントとかってありますか?
福島:まず前提として、どうやって育成するかみたいな話をすると、まさに座学とかコーチングとかをひとしきり全部やってみたんですよね。社内のシェアリングを毎週やってみるとか、座学をきちんとやってみるとか。新卒の皆さんを、ユーザベースとかランサーズとかと共同で、全員で総合研修みたいな圧倒的プログラムを組んでみるとか。
いろいろやって我々が学んだことでいくと、もう機会提供しかないと。
矢本:わかりやすい(笑)
福島:ほとんどがそれに集約されるということが分かったので、基本的には事業にちゃんと機会提供をする場を作っていくという風に組織も設計したという形です。そのときの設計の考え方でいくと、まさに組織としてリスクを取れる組織と、そうじゃない連続をきちっとやっていく組織をきちんと分けました。
本体のチラシの紙の印刷をやるビジネスユニットは、やっぱりシニアが見てきちんと次の事業計画を守っていくという、そういう連続をきちんとやっていくというビジネスユニット。インキュベーションをやるビジネスユニットでは物をきちんと作っていくし、本体の事業の中でも主となる商品だったり顧客のところはちゃんとシニアが見て、一方で新しいカテゴリーとか染み出しについてはカテゴリーのリーダーシップとして渡していく。
そういう切り出していくという考え方で、どうやったらフルオーナーシップを持たせることができる単位で切れるかという、そういう考え方で組織なり機会提供していくというのが今やっていることです。
矢本:機会提供=オーナーシップの発揮総量の最大化みたいなところに一番寄与してるんですね。

フェーズ・グレードに合わせた機会提供

26:16~
福島:そうですね。ただ、これ大きければいいかというと、その人のフェーズ感に合わせた大きさにしてあげないと、むしろ成長しないんですよ。成長機会にならない。
いろんな粒があるということが大事。なので、小さな領域、例えばマーケティングでのフルオーナーシップの領域もあれば、マーケティング・オペレーション・プロダクトを持つけど事業としてちょっと小さなの事業体のリーダーシップをフルで持つみたいな(ケースもある)。
段階をグレードごとに分けてるんですけど、5段階ぐらいある場をきちんと作っていくということを今トライしてますね。
矢本:それめちゃくちゃ我々も直面してます。半年〜1年前ぐらいに青山でご相談させていただいたときは「僕が1人でやってます」みたいな感じだったのが、やっと6人7人ぐらいのビジネスユニットのチームになってきて。
そうするとやっぱ各人ごとに結構グレードというか、フェーズも全然違って。フェーズが違うところに同じような機会を当てても、やっぱパフォーマンス全然出ないなというのを思ったりとか。ちょっと一通り苦労してたんですよね。
今おっしゃった、グレードに合ったオーナーシップを取ってもらえる機会みたいなのはその通りだなというのと、そこのデザインの妙がめちゃくちゃ難しいなという風に個人的には感じてますね。
福島:ラクスルの場合でいくと、大きく言うと(グレードを)1から5まで分けていて。
1は「ビジネスに慣れる」みたいな。新卒の人とかが入ってくるグレード。
グレード2はプロダクトかマーケティングかオペレーションのどれかで、1個何かの非連続のグロースを作れる経験をしようという形。マーケティングで何かを伸ばしたとか、プロダクトで何かを伸ばしたとか、オペレーションで効率的にした、生産性伸ばしたとか、そういう経験を積んでもらうという。
それができたらグレード2を卒業してグレード3。3要素のうち2つぐらいはちゃんと自分で見れて、3つ目については視界には入ってるけどレバレッジができるわけではないみたいな。でも、その3つを駆使しながら、事業成長を作っていくという形をできるようになるというのがグレード3の形。比較的もうBizDevの全体感として1つの塊になっていて、そこは一番小さな小カテゴリーみたいな、領域を持つという形になっている。
グレード4になってくると、事業帯全体をちゃんと見ることができるという形。BizDevの世界ってのはそのプロダクトとオペレーションとマーケティングの3つがあれば、だいたいレバーが効くんですけど、その先の組織とかファイナンスとか市場環境とか経営アジェンダを見るような事業家というレイヤーにあがってくるのがグレード5。そのグレードでは、組織もちゃんと見るとか、採用もきちんとやりきれるかという経営要素が入ってくる。
そういう感じで今分けてます。
矢本:今そのグレードをそのまま採用させていただきます(笑) めちゃくちゃそうだなって思いながら聞いてました。
福島:それに合った組織の場がないとそうならないので、その場をちゃんと「くくってあげる」ことが大事。事業のポートフォリオマネジメントする立場の経営者は、事業ポートフォリオと人材ポートフォリオをどうマッチさせていくか。人材のポートフォリオの成長機会と同じ球をちゃんと事業としてくくり出せるか。
人材ポートフォリオと事業ポートフォリオを行き来しながらバランスを取っていくという役割が、育成全体の仕組み化のポイントかなと思います。
矢本:確かに「くくり出せる」という言葉が結構キーワードかなと思ってて。
多分、事業って大きければ大きいほど、見えてないけどくくり出せるレバーとかってたくさんあるなと。今やってないけど、くくり出せるレバーとかたくさんあって、それをしっかり言語化して、機会として区切ってあげるということが、くくり出すことなのかなという風にイメージしました。
福島:そうですね。10X,ラクスルもそうだけど、多分BtoBのサービス、広がりのある産業とか事業の特徴って、そういうことを実は作り出しやすいなと思っていて。やっぱりBtoCの単一アプリでドンといったタイプだと結構作りづらい部分もあると思うんですけど。
我々にはオポチュニティはめちゃくちゃあって、それをどう切り取ってビジネス化していくかみたいな。そういう切り取り方の世界でオポチュニティが広がってるという。これがBtoBの事業領域かなと思うんで、そういう意味ではBtoBではやりやすいのかなと思います。

役割としての非連続性に対しての採用・育成

31:22~
矢本:確かに。ちょっとだけ話が戻るんですけど、結局非連続性みたいなものも役割として捉えていて、例えばインキュベーションというユニットを区切ったり、あるいは創業者がハコベルやるときには、それを(代わりに)受けれるようにして創業者が集中できるようにしたみたいな。
ある種非連続性も、何か役割として担えるようにされてるのかなと思うんですけど、逆にこういう人って、採って来れたり育てられるものなんですか?それもやっぱり機会によるんですか?
福島:ナチュラルボーンボーンな人はいますよね(笑)
うちのFounderの松本とか含めて、ナチュラルボーンな人はいると思います。ただ、両方できるとか、どっちにも素養のある人はいると思うので。そういう人たちを非連続もできるようにしていくという形は設計できるかなと思っていて。
なのでラクスルでもプロジェクトという3つの非連続のやり方って、ノバセル・ハコベルみたいにもう事業としてガーンと切り出しちゃう分離タイプと、事業本部内で組織として切り出すインキュベーションのビジネスユニットみたいなタイプと、プロダクト開発とかはあまり組織が必要ないので、プロジェクトって形でもうタスクフォースでバサッと切り出して、6ヶ月後に自動化やってくださいみたいな切り出し方をするんですけど、プロジェクトに向いてる人向いてない人みたいな話で、それはもう一定の素養はあると思いますね。
ただナチュラルボーンの起業家の数を100人に1人とすると、プロジェクトって形に設計すると100人に10人ぐらいは非常にパフォームしてくれる方がいるという感覚に近くて。
我々みたいに結構いろんな事業を開発していこうと思うと、初めのそれこそ2016年ぐらいは「厳選採用だ。ナチュラルボーンの非連続をやれる人だけ採用していこう。」ということやったんですけど。そうすると年に1人とか(笑) 全く拡張性のない話になるので、今は比較的場の提供を持って、そのポテンシャルある人たちを10倍にしていくというのに取り組んでるという感じですね。
矢本:今日のこの話総括すると、やっぱこの場の設計とか、そのくくり出し方みたいなところが経営の大きいアジェンダの1個なのかなという風に思うんですけど。
それって議論でやってくるか、それとも割と福島さんがドンと作ったりとか松本さんがドンと作ったみたいな感じで考えられるんですか?行ったり来たり人材と事業のポートフォリオを行ったり来たりしてるメインはどなたがどんな感じに担っているんですか?
福島:それは議論してますね。エグゼクティブで「今のポートフォリオこうだよね」という人材のポートフォリオの話と事業のポートフォリオの話で、3年後の事業の成長から逆算したときにどのポートフォリオなり、どの人材が足りてないんだという、そこをどう埋めに行くのかというのはちゃんと議論してますね。
なので、経営アジェンダとしてちゃんとアドレスしてるというのがラクスルのスタイルです。

経営と執行の分離はOneWayかTwoWayか

34:42~
矢本:なるほど。この最後のフェーズであるフェーズ3に入ってきて、経営と執行を分離して縦横になってくるじゃないですか。経営のところが、まさにその事業の解像度とその人材の解像度を上げてくというのが、そうなるとすごい難しいんじゃないかなと。
僕も将来を見たときにそうなるべきだけど「どうやってなったらいいんだ…」というのは結構今から考えたいなと思っている部分で。ここのインプットって、どうやられてるのかとかはお聞きできますか?
福島:まず「ごめんなさい、試行錯誤中です」というのがもうストレートな感じですね。松本が「次の体制にチャレンジする」と言って今やってみてますというのが今の本当のステータスです。
議論のシェアをさせてもらうと、ものすごく対極な議論があって、「いや、1,000億まで執行と経営なんか分離しなくていいんじゃないか。その必要はない。」という、「グロースはやっぱり経営と執行一致の方が強いので、1,000億くらいまでそうやって走ったらいいんじゃないか。」という議論。
(もう片方は)「いやいやもう1,000億を超えて、そういう風になっているのが見えている。その中で、そういう体制にちゃんとチャレンジして、そこの何が機能して、何が機能していないかは試してみる(べき)」という。
こういう2つの議論があって、今ラクスルでいくとそれを試してみようとなっている。ラクスルの考え方としては「TwoWayなものはやってみよう。OneWayなものは非常にリスクを取るんでちゃんと慎重に考えよう。」という考え方をしていて。今なら経営と執行の分離を仕組みとしてやり切っても、人としてはかなりどっちのスキルを持ってる人たちで構成してるので、多分戻ることもできるしバランス取ることもできるので、比較的経営のリスクがそんなにない状況だと思っていて。
こういうタイミングでトライした方が多分大胆に行けるし、戻ることもできるという。そういうTwoWayのときガツってちゃんと学びを得ておくという、それがラクスルの今の考え方かもしれないですね。
矢本:いや「TwoWayだったらやってみよう」は、ものすごい10Xも似ている考え方なんですけど、経営と執行の分離というガバナンスのアジェンダをOneWayに思い込んでいる節があったんですよ。
それはTwoWayだって捉えて、「いや、それはこの人材ならできる」という発想をして実際にやっているというのは、ちょっと今頭を殴られたような衝撃がありました。
福島:なので、そういう意味では事業の考え方と経営の考え方をあまり分離してないんですよ。なんか経営になるといきなり教科書的になったり、経営論的になったりするじゃないですか。一方でかなり経営にもリアリティとか検証型の考え方を入れているというのは、ラクスルっぽいのかなと。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というのは、会社の仕組みも一緒であるという風に思っていて、それが比較的文化のところかなと思います。
矢本:いやめちゃくちゃすごい会社ですね。なんか普通に40分メンタリングしてもらったような気持ちになりました(笑)
福島:とんでもない(笑)
矢本:ありがとうございます。
 
(後編に続く)