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子育てとスタートアップ起業

Created
2021/10/26
Tag
Essay
この文章では子育てや家事といったライフワークへ対する時間のシェアを高めながらスタートアップを起業する、というのが「普通」になるのではないか、という個人の仮説と体験を綴ったエッセイです。サラリと書くつもりが長くなってしまいました。
 

 
私自身は「両親遠方 + フルタイム共働き + 子育て」という環境から起業し、会社も、家庭もなんとかやりくりして生きています。
 

起業家と育児の今


創業した2017年前後に、「フルタイム共働き、お子様が小さい」という自分と似たような境遇の方は周囲にチラホラでてきていた印象ですが、まだ多くはなかったと記憶しています。ですが、今後はますます増えるのではと考えています。はじめにマクロを簡単に洗います。
 
以下はよく出る共働き率の増加を示すチャートですが、今では日本の(婚姻済)現役世帯の68%が共働きです。
 
総務省統計局「労働力調査特別調査」、総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」
総務省統計局「労働力調査特別調査」、総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」
 
続いて以下は日本における「起業家の平均年齢」を示したものです。過去一貫して上がり続けており、現在では49.7歳が平均とのことです。
 
 
中小企業庁のリサーチ
中小企業庁のリサーチ
 
この2つのチャートを安易に結びつけることは乱暴だというのは重々承知していますが、「マチュアな人が起業をする以上、その起業家の背景には家族や世帯がある可能性が高くなり、共働きである可能性も高い」ということについては十分説得力の高い仮説であるように思います。
 
私の身の回りだけの話かもしれませんが、周囲の同世代世帯の多くは「結婚・出産後も揃って勤務を継続し、家事や育児は合理的なシェアに近づけるという合意がある」ケースがほとんどです。
 
「イクメン」という存在自体がレアだった?頃と比較して、この言葉自体が死語になりつつあります。かつてイクメンと言われるとイラッとしていましたが、今では概念自体が消え去ったと感じています(あくまで私の体感の話)。
 
仮にこういった背景が社会の下敷きになりつつあるのであれば、こういった世帯背景をもった状態で産声を上げる起業家は「起業」と「家庭」を完全に分離して働くことは現実的ではないでしょう。
 
自分たちより少し上の世代の起業家を見ると、圧倒的に男性起業家が多く、パートナーが家庭に対して融通をきかせやすい状態をとっている方が多いと感じます。
 
これと対比して私たちより下の世代の起業家は「フルタイム共働き世帯が子育てを背負いつつも起業し、起業後はパートナーと自分の時間を仕事、生活、育児、その他へうまく配分していくことがマジョリティとなる」、そんな世代の継ぎ目に立っているのではないか、と思うこともあります(起業家に限らずそこに勤務する社員などでも同じことが言えますね)。
 

葛藤


こういった環境の中での葛藤はもちろん自分の中にもあります。
 
ある日、とあるメンバーから「育児と仕事両立の工夫について話してほしい」とカジュアルな会話を交わしました。が、その後考えてみると、正直言ってそんなものはないな、と思い直しました。
 
コロナで自由に飲み会にいけなくなった、という声をよく聞きます。ただ私(達)のような環境では「計画せずに使える自由な時間」はもとより遠いものです。隙間の時間で工夫して友人や同僚と交流をする人もいると思いますが、多くは仕事と育児の間にある「孤独」とも戦っていると想像します。
 
ただですら「同じ境遇の人が少ない」故に、心理の共有が難しいとされる起業家であればなおさらかもしれません(自分は孤独がきみを強くするという岡本太郎に感銘を受けており、うまく付き合えている方だとは思いますが…)。
 

日々のモヤモヤ


夕方になると、お迎え時間で仕事や議論を切り上げなくてはいけないモヤモヤがつきまといます。
オフィスから慌ただしく保育園へお迎え向かうなか、間に合うかなとプレッシャーを感じるのが日常です。
頭に残った仕事の残穢を取り払い、子供に向き合わねばというプレッシャーがあるのも日常です。
夕飯を終えたら「明日の宿題やったかな」「明日の荷物準備したか?」
慌ただしく一日を閉じていく毎日で、オペレーション効率化が大好きな自分ですがこれらにこれ以上の工夫の余地はほとんどないように思っています。
自分が超朝型にシフトしたのも、自分の時間を確保できるのは早朝くらいという制約からでした。
 

フルリモートの恩恵


ただ一つ、こういった負担を劇的に下げてくれた事象があります。コロナを機に初めてトライしたリモートワークです。
移動時間が減ったことは、時間のない自分にとって計画に算入できる時間と「誰かに迷惑を掛けるリスクの低下からくる心理的安全性」をもたらしました。急な子供の呼び出しにも自宅からすぐに駆けつけられる安心感よ。
同時にフルリモートとなったパートナーとあわせて、この働き方への適応から受けている子育てへの恩恵の大きさをよく話しています。
 

組織人のパフォーマンス


人のパフォーマンスはどのように定義されるのでしょうか。
 
多くの人事や経営者にとって組織のパフォーマンスは大きなイシューです。人のパフォーマンスをなんとか測り、向上するための環境を整えようと努力することが自然です。福利厚生を充実させたり、制度と風土を磨くことでしょう。
 
ですが、本当にそれだけで人のパフォーマンスを向上できることは絶対にありません。その裏にあるプライベートの環境に問題を抱えていればパフォーマンスは下がります。それが自分が社会人生活で身を持って経験してきたことです。
 
パートナーと喧嘩となれば仕事に手がつかなくなり、息子が熱を出せば仕事は中断せざるを得なくなり、大病が発覚すれば手術の経過が落ち着く数年の間は「なんとか両立」で精一杯でした。
 
特に子供が生まれてからは「自分で解決できない問題」が多く、このプライベートがパフォーマンスに与える影響は一層増したと感じています。それでもなんとか7年間やってきました。
 
少しずつ慣れが解消してくれる問題もありますが、多くはそうではないということを身を以て体験しました。仮に週に1度のお迎えや夕飯準備であれば問題ないでしょう。でも共働き世帯はこれらを週5のイシューとして世帯のリソースをシェアして取り組む必要があります。自分のカレンダーには週に2~3回、ワンオペの文字が未だに刻まれています。
 
要するに、会社組織の中の振る舞いだけを最適化だけでは、人のパフォーマンスは上がらないということです。かといってプライベートまで経営が踏み込みのはご法度です。
 
だから私の会社の福利厚生というのは「各自が困ったときに、自分で使えるリスク排除手段」であるように設計されています。
 
この文章で触れたのは子育てですが、介護や出産、病気など人生をやっていれば仕事に影響を及ぼすリスクは溢れています。これらに対する解や考えを押し付けることはしたくない。でも少なくともこういった状況でも各自が選び取れる選択肢を増やしたい。
 
それが巡って組織でのパフォーマンスにつながることを私は信じています。