組織と人事に向き合ったCEOの12ヶ月

本日10X Culture Deckの組織・人事パートをアップデートしました (以下はその一部です)。
8段階の等級制度の導入
8段階の等級制度の導入
正式なマトリクス組織への移行
正式なマトリクス組織への移行
この2022/10をめがけて10Xという企業組織の進化を進めてきた、そのアウトプットの片鱗になります。
本記事ではこの組織のアップデートの背景として私が考えたことをお伝えするために書いています。
 

最近の私の時間投資配分

突然ですが私は毎月、自分の時間の使い方を振り返るようにしています。2022/9 (19営業日) の1ヶ月はなんと111件もの”人事”に関わるミーティングを実施していたようです。1営業日あたりの平均は約6件、約3−4hです。それも9月だけでなく、およそこの半年間はずっと。

とある面談で言われた一言

ミーティングと外部面談の往復に追われる毎日のなか、採用候補者とのカジュアル面談の中で、こんな一言をいただきました。
🗣
プロダクトや事業開発に熱がある人だと思っていたら、突然組織のことばかりツイートするようになりましたね。なんで突然組織なんですか?なんでそこまで?なんで社長が?
 
その後も多様な方々と毎日のように面談や面接をさせていただいていますが、毎日のように同様のコメントを頂いています。
 
たしかに振り返ってみると、今でこそ プロダクトも、事業開発も、組織も、全て事業を大きくするために等しく大事なイシューだからと自然に思えるものの、そこには自分の意識や力点を大きく変えるきっかけもありました。

10Xがぶつかった”事業の課題”

今からちょうど1年前にあたる2021/09、Stailerはあるインシデントを発生させました。そのインシデントとはお客様の決済に関わるものであり、小売業にとってはお客様との信頼を構築していく上で絶対にあってはならないものでした。
 
この判明直後、自身の緊張感のレベルは一気にエスカレーション。社内でリカバリーに向けて自身はおろか全社リソースの大部分を集中させました。このプロジェクトのオーナーを私が担い、片や原因究明と対策方針の策定、説明を担うと同時に、もう片方ではタスクフォースによってリソース投資ができなくなった他パートナー企業へ対する説明・謝罪・調整を行うという状況でした。
 
このリカバリーはまさに全社一丸という状態で、メンバーのハードワークには本当に助けられました。これらは長期的に見ると10Xを正しい方向に転換させる重要なきっかけだったものの、短期的な視点で見ると予定していた売上発生の大幅な遅延につながっており、クリアできなければ事業継続自体が難しい大きな出来事でした。
 
💡
直後の全社的な集中とリカバリー (2022/04 完了)、そして根本的な対策への投資により、現在では当時と比較すると遥かに安定したセキュリティ基盤、品質管理基盤を整えられていますのでご安心ください。
 

「事業の課題は組織です」

このインシデントをイシューアナリシスし、その原因を深ぼるとすべてが1つの根っこに帰着しました。それは、経営(いや、私)の ”品質” に対する絶対認識の甘さでしたこの認識から全社には以下のような影響を及ぼしていたと考えます。
 
  1. SoRに対応できる組織とオペレーションが設置できていなかった。これにより対パートナー企業との協議においてもD (デリバリ) > C (コスト), Q (品質)という優先度に自然と帰着していました
💡
SoRとSoE (参考資料)
  • System of Record (SoR)” : データやセキュリティの完全性が求められるシステム
  • System of Engagement (SoE) : エンドユーザーの体験満足度に関わるシステム
Stailerは1つのプロダクトの中に、グラデーションをもって両方を内包しています。
 
  1. 大量の非公式な兼務。実際には品質に対しても、”事前に・自律的に” 対処を試みてくれていたメンバーが複数いたものの、本来の職種業務から逸れる場合には評価も称賛されにくい状況でした
評価・称賛されにくい状況については組織サーベイでも課題として表出
評価・称賛されにくい状況については組織サーベイでも課題として表出
 
このとき私と10Xに必要だったのは、今後の事業を継続・成長させ続けるために”守るべき品質”を定義し、この品質を守ること。品質へ投資しながら、同時に事業を成長させるという意思決定。これを可能にするために”すべてのプロセスや機関を変えること”でした。
 
つまり、事業の課題は経営であり、組織だったのです。

それから手を付けたこと

大きく2つをイシューとし、これらを統合した組織移行プロジェクトを組成しました。
  1. [組織企画] 事業の品質を守り、成長を生み出せる組織ストラクチャを創る
  1. [人事企画] 人のパフォーマンスが最大化し、組織とアラインできる人事制度を創る
 
それぞれ「なにそれ?」と思われるかもしれないのですこしだけ説明させていただきます。
 

組織企画 - マトリクス組織の導入

組織企画は人という資産が動くための機関です。
 
インシデント直後より、SoR、すなわち品質やセキュリティへ専任するプロジェクトをエンジニアリング本部内にて組成する形で模索を始め、2021年末にはチームとして確立させるに至りました。
 
ただスタートアップ経営にとっては常に強いリソース制約の中で最大成長を模索する必要があります。そのためにはStailerという事業の本質を捉え直し、それを組織に反映する必要がありました。
 
現在、その本質は以下の2点で整理しています。
  1. パートナー1社1社の成功と向き合い切ること
  1. 資産性を最大化すること (高い品質とスケーラビリティの両立 → 後にプラットフォームへの発想へ発展)
 
この2点は時に矛盾をします。しかし矛盾に対して2つの視点から ”健全な牽制と議論” がうまれる組織を創ることを目指しました。これが組織企画になります。
 
この過程でかなりの時間をかけて”組織”を勉強させていただき、結果的にマトリクス組織という形態を正式に採用しました。社内にはこの過程での思考、そして設計の詳細を記した”Design of マトリクス組織”というドキュメントをアウトプットし、組織の再編を進めたのです。 (内容については以下の3枚で雰囲気をお掴みください。クリックすると拡大できます)
「Design of マトリクス組織」の導入
「Design of マトリクス組織」の導入
実際の組織図。縦が事業本部、横が機能本部とコーポレート本部という3つの構成
実際の組織図。縦が事業本部、横が機能本部とコーポレート本部という3つの構成
すべての本部、部にはミッションと責任が定義され、すべてのメンバーは主務・兼務を含めてどこに、何%アサインされるか明示化されます
すべての本部、部にはミッションと責任が定義され、すべてのメンバーは主務・兼務を含めてどこに、何%アサインされるか明示化されます
これから10Xでの本格運用が始まります。10Xなりのマトリクス組織の運用を通じて、事業における品質も成長を生み出していきたいと考えます。
 
※マトリクス組織については文献が十分に存在せず、大先輩であるラクスルCOO福島さんに大変細かい点まで質問をさせていただきました。すごいのは福島さんです。

人事企画 - 人事制度の再定義と刷新

先の組織企画が”器”の話であるとするなら、人事企画は”人” への会社の関与を定義するものです。
 
10Xに2020年来、5段階で整理された評価制度がありました。10Xが最も重要と考えているValuesの発揮度が尺として示されたシンプルなものです。
 
しかしこの制度は10人で運用していたときはOKなものの、メンバーの多様性が増した2021年後半には機能しないシーンが目立つように。当時のドキュメントには以下のように課題と方向性を記しています。
2022/4の手記
2022/4の手記
 
課題や方向性自体はあるものの、人事制度はすべての人の給与ややりがいに直接関わるものであることから、「次に安易な設計は許されないぞ…」という緊張感もありました。
 
そこでNstock 宮田さんを頼り、SmartHRの人事制度 ver1から現在に至るまでを支える人事コンサルタント金田さんをご紹介いただきました。この金田さんとの出会いが私が人事へ本気で向き合うもう一つのきっかけになりました。
 
金田さんのブログにはその濃密なノウハウが開かれています。小屋作りも気になりますね。
 
成長企業だけでなく、成熟企業の人事の燃える現場まで幅広くご担当されてきた金田さんが持たれていた”型”を徹底的に学び、そこに10Xとして重要視しているValuesやマトリクス組織のエッセンスを混ぜた上で人事制度を設計をすすめることができました。
 
(設計の段階から「運用で起きうる問題」を事細かに指摘できる金田さんはマジモンや…とメンバー一同驚愕しながら。)
 
最終的には「旧評価制度」を3つの制度に分解し、その関連を明確に。
人事制度の全体像を定義
人事制度の全体像を定義
3つのDesign Docを整備し、制度の骨子を整備しました。
Design of 等級制度, 評価制度, 報酬制度をアウトプット。これと関連して採用時のオファールールも再設計
Design of 等級制度, 評価制度, 報酬制度をアウトプット。これと関連して採用時のオファールールも再設計
 
本日は旧制度からの移行を経た初日になります。
 
移行と運用開始に向けた緻密な準備においては弊社のコーポレート本部のハードワークを自慢せずにはいられません。皆さん、本当にありがとう。一緒に働けることを誇りに思っています。
コーポレート/ファイナンス本部のお茶会
コーポレート/ファイナンス本部のお茶会

私にとってのTake Away

10Xには, , という3つのValueがあります。創業来、最も大事にしてきた価値観です。今回取り組んだ組織企画も、人事企画も、このValuesの発揮を現在から2年後くらいまでの10Xにおいて最大化していくためのものだったといえます。
 
似たメンバーで集まった創業当初は、「何もかもが足りない中で、自分の可能性を拡大しながら、必要な仕事を見定め、不確実な仕事でもとにかく推進できる」という姿勢が”Valuesを発揮している状態”だったかもしれません。
 
しかし会社が大きくなり、関わってくれるメンバーひとりひとりの色が多様になり、その人数が増えた今ではこの解釈を変えるときが来たのだと思います。
 
組織がなければ、新しく入ったメンバーは何をしたらいいか戸惑うでしょう。誰かがしている仕事をむやみに上書きをしたり、他のメンバーと頻繁に頭をぶつけてしまうかもしれません。
 
正しく級(クラス)や目標を決められなければ、Valueという抽象的なものをどう行動に反映したらよいかわからないでしょう。何をしたら会社が嬉しいのか、という全体性にも目を向けにくくなるはずです。
 
10X Valuesを発揮するには、ひとりひとりの機会と期待が適切に明示されている必要がありました。
 
明確な機会と期待のなかでこそ、それを超える方法を考え(Think 10x)、躍動し(Take Ownership)、チームの成果に向かう(As One Team)。それを受ける者は、言葉で反応していく。そうやって巡ったフィードバックのなかで、個々のValues発揮が大きくなっていくのだと気付かされました。それが事業価値という形で返ってくるのだと。
 
価値は事業のアウトプットであり、事業は組織のアウトプットであるというのがこの一連を通じた私の学びです。そして組織は永遠に完成しない、ということも。
 
今回の組織のアップデートを通じて、今いる10Xのメンバー、そしてこれから迎えるであろうたくさんの仲間が、Valuesを発揮し活躍いただける基盤を整えられたのではないかと思っています。これからの10Xも楽しみでなりません。
 
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10X 採用情報
私たちは今、Stailerを通じて「すべての人の買い物体験を10xする」ことを目指しています。誰もが日常的に利用するお店での買い物体験や、小売の現場でお客様を365日支える方々の仕事体験。「買い物」をとりまく体験を、プロダクトの力で理想の姿にしていくのがStailer事業です。
もっと便利で、もっと多様な購買体験に、日本中の誰もが当たり前にアクセスできる社会を目指して。私たちの仕事は、私たちが大切にしたい誰かの生活と確かにつながっています。
この機会を形にしていくため、各種ポジションで絶賛採用中です。 カジュアル面談や、オープンオフィスの機会もありますのでご関心いただいた方はぜひお話しましょう。