エンタープライズ・プラットフォーム
大企業(エンタープライズ)の課題を汎用的に解消するためのソリューションとしてプラットフォームを構築しようとすると、このプラットフォームには相応の要件が存在します。本稿は私にとってのこのホットなトピックを考察したものになります。
エンタープライズはどんな環境で戦っているのか
エンタープライズへ対しプラットフォームとしてサービスを提供するとき、彼らから求められる要件は我々のようなスタートアップからすると一見に非合理に映ることがあります。
しかし彼らの立場を理解し、そのビジネスの環境を正しく認知するとその要件が実は非常に合理的であると再考させられる機会も多いものです。
ではエンタープライズ方々はどんな環境でビジネスを行っているのでしょうか。エンタープライズの側に立ったときに見える景色を言葉にしてみました。
毎日、数十万、百万人というトランザクションを扱います。私達のお客様の要求はとても多様で、また何十年もかけて事業領域は広大になっています。
顧客満足度を高めるために、様々なシステム・データベースを活用します。これらをうまく接続して営業やサービスの品質を高める必要があるのですが、それぞれに最適化しているため接続には時間がかかりなんとか実現しています。
こうして独自のサービス、独自のオペレーションを構築し、ブランドとなり、それが競合との優位性や顧客を惹き付ける要因になっています。
しかし市場では常に競合との激しい競争に晒されています。優位性を築くために新規機能・事業へのチャレンジをし続けなければいけません。特にマルチチャネル化はあらゆる企業に訪れるテーマであり、チャネルを1つ追加するたびに、自社の強みであるオペレーションを作り直す必要にしばしば迫られるのです。
こうして複雑化し続けながらも変化を必要とする社内オペレーションや、大量に抱え込んだ顧客データは常にセキュリティリスク、サイバー攻撃リスクと戦うことになります。
要素を抜き出していくと以下のようなキーワードが垣間見えるかと思います。これが私が見てきた「エンタープライズのビジネスの共通項」とも言えます。
- 膨大な顧客基盤
- システム・データベース接続の重要性
- マルチベンダ
- マルチチャネル
- オペレーションのユニークネス
- 激しい競争、変化への圧力
- セキュリティリスク
エンタープライズ・プラットフォームに求められる要件
前述のビジネス環境は、”エンタープライズへサービスを提供する側への要件” として翻訳されます。マストは以下の5つに集約されるのではないかと考えます。
- 高いアップタイム 事業のスケールが広いため、一時のサービス停止が大きな損失(絶対額)に直結する。そのため、高い品質・サービスレベルが必要となる。また運用自体が非常に重くなるため、これらの運用をクライアントが自律的に行える環境を整える必要がある
- 強い情報セキュリティ 情報の漏洩、改ざん、システム停止といった内的なリスクや、なんらかの欠陥による脆弱性をついた攻撃などの外的なリスクまで、広域に渡り堅牢性が必要となる
- カスタマイズ受容性 エンタープライズは戦線が広く、多様である。これらに対応するためには汎用化された機能だけでは絶対に対応しきれず、独自のオペレーション、独自の体験を表現するために、素早く、独立したカスタマイズを必要とする。
- 他システムとの連携容易性 既存のビジネスで構築した「顧客のID」「システム」「データベース」等との接続を求められる。レガシーシステムの場合、十分に接続がしやすいインターフェースが存在しないことも多々あり、これらに対応し切る必要がある
- ベンダロックアウト ビジネスリスクを分散するため、また既存システム等との併存のため、ベンダを1社にロックインしなくて良い状態を必要とする
ここまでの背景、要件を煮詰めていくと、Headlessという一つの方向性に到達します。
すなわち、フロントエンドフリーでAPIやDB層の抽象度での価値提供に集中するプラットフォーム、という形態です。
Why Headless?
エンタープライズにとって「独自の価値を表現する必要性」はスタートアップが考える以上に強いものです。
例えばトヨタは複数のプロダクトラインナップを持っており、トヨタ、レクサス、完全子会社であるダイハツのブランドページが同じでいいはずがありません。ディーラーの雰囲気、Webサイトの構造、乗車時の体感など、顧客体験のどこを切り取っても、まるで違うものを志向しています。これはオペレーションのユニークネスも多様であることを意味します。
しかしながら、顧客管理やID、購入履歴、利用履歴など”お客様”へ焦点を当てる上では顧客を統合して適切なタッチをしたいと考えるはずです。
翻って、”複数のエンタープライズへサービスを提供したい事業者” (つまり我々)は、社数・オペレーションと体験のスケーラビリティ、そして最終顧客の統合という難題に答えを出さねばなりません。
社数はせいぜい数えられる程度ですが、オペレーションや顧客体験は無限です。すべてのアプリケーションにフロントエンドをくっつけていてはこれは成立しないのです。故に、Headlessにならざるを得ないのではないか、というのが私の今の考えです。
オペレーションや、顧客体験の肝となるアプリケーションのインターフェース(API)を適切な分解点で切り出しすこと。これらを選択的に集合させ、組み合わせによって骨格を構築できるようにすること。最終接点となるフロントエンドはこのAPIを活用した上でエンタープライズが自由に構築できるようにすること。これがHeadlessの価値です。
これであればエンタープライズ向けにプラットフォームをスケールできそうではありませんか。
※ただし、エンタープライズが自分たち(ベンダをコントロールして)でフロントエンドを構築できるなら。
Headless Commerceの隆盛
10Xが身を置く(広義の)コマース領域では、Amazonのマーケットプレイス、Shopifyでは満足できないエンタープライズ向けのソリューションが長年枯渇していました。ShopifyはこのGapに応えるためにShopify Plusを市場へ投入しましたが、競合たちはよりこのエンタープライズという顧客カテゴリに集中をしています。
私が認知しているだけでもこれだけ存在しているのです。すべてAPI-firstで、誰もが名を知るエンタープライズを複数顧客に持ち、多様な顧客体験を1つのプラットフォームで支えるHeadless Commerceのスタートアップです。
このなかにECのなかでも最も難易度が高いe-Grocery(ネットスーパー) のプレイヤーはいませんが、5年後にはここにStailerのようなサービスも名前も名を連ねるでしょうし、私達がそうでありたいと思っています。
2022年は10Xにとってプラットフォーム化へ向けた一歩目を踏み出した記念すべき年になりました。幸いなことにTo Beに対しては見上げても天井が見つからないほどのGapが存在していますが、そのすべてをやりがいだと思っています。
10X 採用情報
私たちは今、Stailerを通じて「すべての人の買い物体験を10xする」ことを目指しています。誰もが日常的に利用するお店での買い物体験や、小売の現場でお客様を365日支える方々の仕事体験。「買い物」をとりまく体験を、プロダクトの力で理想の姿にしていくのがStailer事業です。
もっと便利で、もっと多様な購買体験に、日本中の誰もが当たり前にアクセスできる社会を目指して。私たちの仕事は、私たちが大切にしたい誰かの生活と確かにつながっています。