CEO 360°レビューを受けました #1 (2020/09)
CEOはフィードバックサイクルが遅いという問題があると考えています(完全な結果責任、立場上フィードバックがされづらいなどの要因から)。これに対し、定期的・適切なフィードバックを行うことでCEO個人のイシューや、組織のイシューををあぶり出すことを目的にCEO評価を実施しました。
調査設計
2020/07までのメンバー13名を対象とし、投資家であるDCM Ventures原さん、猿丸さん(以下、DCM)と個別に1on1インタビューを実施してもらいました。この詳細についてはDCM猿丸さんがnoteに記してくれているので合わせて読んでみてください。
調査設計はSmartHRで行われているCEO評価の方法をSmartHR CEOである宮田さんに教えてもらい、これを参考にしました。 インタビューの質問項目に対し、DCMが独自に採点基準に作成し、レポーティングまで行ってもらいました。
調査の方向修正
実施を進める中で、「正確なCEOのイシューをあぶり出すには、10Xにとっては調査内容が不十分である」という評価方法自体へのフィードバックもありました。これをもとに今回は途中(N=9)から独自の質問を加えて調査を行ってもらいました。
- 現CEOを3つのキーワードで表すとするなら?
- 現CEOはいままで出会ったリーダーでトップ何%か?
- 上位1%に入るためには何が必要か?
レポート
DCMに個別インタビューでの発言内容を抽象化した上で「そこから浮かぶ上がる現状」と、「今後起きうる(必ずしも現在起きているわけではない)課題」という2つをレポートしてもらいました。本稿では各項目のレポートに加えて、このレポートを受けて矢本が感じたこと(テキスト)を記載します。
1 / バリューの明快さ: Avg.4.92(Max:5, Min:4)
バリューについては2020年4月に施行しました。特に「自律する」「背中を合わせる」の浸透度や実践度は極めて高いレベルにあり、DCMからも「スコアからも明らかなように、これ以上はない」というフィードバックを受けました。「10xから逆算する」については、それ自体が難しく体現も難しいが、全員が頭において行動できているとのこと。
採用においても、働き方においてもバリューが強く浸透しているというのは「現実にワークするもの」を構築できたということ。その点については会社を強くすることに繋がったと実感できました。
他方で、今後の検討課題「人数のスケーラビリティ」についてはこの後のレポートでも同様イシューが挙がっており、個人としても強く意識している部分です。この点については自分の考えをまとめて後述したいと思います。
2 / ビジョンの明快さ:Avg.3.88(Max:5, Min:2)
実はビジョンはなく、ミッションは「10xを創る」です…。
「そもそもあったのか、なぜこれなのか、なぜ小売10x*じゃないのか」といったコメントからも、浸透が低いのだと明確になりました。これについては自分のイシューだと感じており、すぐにネクストアクションに移したいと思います。
ちなみに10Xは社名自体が「達成したいことそのもの」であり、非連続性を達成し続けるには「枠を決めること」がかえってマイナスになると考えているところがあります。
経営の透明性の高さは創業のDay1から意識して構築してきているものなので、自己評価との乖離は大きくはなさそうです。他方で、そこに「明確なビジョン浸透」があれば現在のドキュメントを通じた経営のオープネスはより効果を高くできるのだろうなと思いました。
ポテンシャルな課題は「人数が増えたときにドキュメントだけで解決できなくなったらどうするのか」というスケールに伴うイシューと理解しており、こちらもあわせて後述でまとめます。
- ちなみに仮に「小売を10xする」といったものはプロダクトビジョンであり、会社のビジョンはより抽象度が高くあるべきだと思っています。
3 / カルチャー作り:Avg.4.81(Max:5, Min:4)
現状としてはカルチャー = バリューの発揮度という側面が強いのだろうと思います。
他方で今後のイシューは「下からの吸い上げ」「Inclusiveな風土」の2つが挙げられています。前者は組織スケールに伴うもの(後述)、そして後者は現時点の課題であると考えています。
Inclusiveとはどういう状態でしょうか。個人的に考えをまとめると以下のようなものです。
- 知識や仕事面だけでなく、心理的なオンボーディングがしやすい
- 「ためらい」を解除できる
- よりお互いへの許容やつながりが実感できる
- これらが「自律」や「事業への緊張感」と同時に成立する
一見トレードオフに視えるものを同時に成立させていくチャレンジだなと思っています。この目指す姿は一般的な「仲の良さ ≒ 友人」とは違うものになるとは思います。
そしてこの状態を作るのは矢本個人のイシューであるとともに、会社 ≒ 全員にとってのイシューであるとも思います。各人の行動がInclusiveに向くように、「理想の状態(10x)から逆算して」組織デザインしていきたい、優先度を高くしたいと思いました。
4 / 人材マネージメント:Avg.3.58(Max:4.5, Min:3)
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この点については、DCMより「このインタビューの設計だと、1on1をやっていない会社にとっては低く出る。スコアを高めるには1on1を行うのが一番早いがそれが社員の成長を考えたときにベストな方法なのかは考えるべき」と別途フィードバックを頂きました。そして個人的にも同じ考えを持っています。
カルチャーの項目では「下からの吸い上げがない」というコメントも有りましたが、本項目では真逆のコメントも見られ、2面性が確認できます。
これはスケールに向けて準備していること(≒ドキュメントを中心として組織マネジメントのレバレッジがかかりやすい状態の構築)と、事業を優先するが故にあえて今はやらないで進めていること(≒ ヒエラルキーの明確化や、1on1による個人のキャリアの細やかなサポート)に依存しているのではないかと考えています。
この2つはG3以上にフォーカスするという採用戦略ともセットであり、「今のフェーズでのベター」だと考えている反面、長期的には多様性や人材Developmentを強くしていくのは必須だとも考えています。この切替に対して自分自身非常にセンシティブであり、事業フェーズと組織強化のバランスの中でタイミングを間違えないこと、そして変化するときは10xに進めたいと考えています。
5 / 現CEOを3つのキーワードで表すとするなら?
一言でいうと、主観と客観にほとんどズレがありませんでした。たしかに自分は器用ではないし、気の利いたことは言えず、納得のある客観性が提示されない限りなかなか意見を変えません。ただギャップがないこと。これ自体はポジティブなことだと捉えています。
リーダーシップがなんなのか、は自分には答えがありません。他方で、自分の性格や、重要視している価値観は人生そのものであり、変えがたいものも多いです。「自分らしさを如何にうまく活用し、社会・チームへポジティブな影響を与えられるか」という命題なのだと捉えています。
その点で、自分が強みと認識しているものも、弱みと認識しているものも、非常に正確に理解されているのだと感じました。妻にこの結果を見せたところ、「みんなあなたのことを本当によく知っているのね」と笑われました。
強みはより強く、他方で弱みはそれを補うチームをつくることでなんとかしていきたいと改めて強く思います。今のメンバーはそれぞれに「矢本とは違う強み」があるからこの組織にいるのだと思いますし、頼りにしています。
- ちなみにDCMがスタートアップ退職者に対し離職理由を調査した結果、頻繁に理由に挙がるのが「社長が事業や会社に集中していないから」だそうです。素朴さは「見落としがちだが、重要なこと」らしいです。
6 / 現CEOは今まで出会ったリーダーでトップ何%か: Avg. 8.3%
DCMより「素晴らしい評価。如何に保つか、更に1%になるためのイシューにフォーカスしてください」とコメントを頂きました。そして「人間性とかで素晴らしい人はもっといる」は本当にそう。
自分は誰でも気持ちよく距離を縮められる社交的な人間でも、言動で多くの人を惹きつけられるカリスマでもないと思います。この点は悩むことも多いですが、割り切って自分がすべきことをやろう、有り得ない強度で打ち込もうと考えています。
足りない部分を補えるチームを創る、というのがこれから一番意識すべきところかなと思いました。
7 / 上位1%に入るためには何が必要か?
この項が普段直接聞かない意見が最も現れていて一番良いフィードバックだと思いました。そしてそれぞれ挙がっているコミュニケーション、経営者への集中、組織転換、事業成果ついて、全く異論ありません。
1のコミュニケーションについては改善を試みたいと思いますが、なかなか治せないんですよね。。家庭でも良くミスをしています。指摘もしづらいことだと思いますが粘り強くやっていきたいです。まず怖がられないように、そして感謝をより口にしたいと思います。一個一個。
4については本当に頑張ろう。こればっかりは自分が、というよりチームで、です。事業が成長することが、自分だけでなくチーム全員の唯一の成長機会だと思います。伸びない事業をずっとやってきた自分が言うのだから間違いありません。
そして2と3については、これもスケールに伴うものだと思います。長期的にどう対処すべきかというイメージを明確化して、伝えたいなと思います。
考察 / 組織スケールについての考え
ここまでに挙がってきた、「組織スケールをどう進めていこうと考えているのか」について記したいと思います。
前提にある考え
前提として、3つの考えがあります。
- 神は順序に宿る: 「将来すべきこと ≒ いま効果のあること」とは限らないという考えです。これは長年のプロダクトマネジメントの経験から来ていると思います。それは組織スケールについても同じように考えています。例えば、どういう組織図のために、どういう順番で、どういう人を採用するのか、どういう施策をいつ行うのか、といったイシューがあります。
- 組織は事業に準ずる: 全ての企業の存在意義は「個人で到達できないような、大きな事業を実現すること」にあると考えています。つまり「事業のスループットを高めるために組織はデザインされる」という考えです。更に事業にはフェーズによって「不確実性のグラデーション」があり、ベストの組織の形は大きく異ると考えています。
- 組織づくりは1way Door: 特に小さいフェーズほど、組織における一人ひとりの振る舞いの影響度は高くなります。また日本においては解雇規制が厳しく、実験的に組織をスケールしたり縮めたりするということが事実上できません。つまり1wayの意思決定となり、「失敗が許されない、失敗した場合年単位の修正時間を要する」と考えています。他方で常に一人ひとりの創造性が高い環境を保てると、会社への恩恵は計り知れません。資本政策と同様の重みのある意思決定であるべき、と位置付けています。
これらの前提を踏まえた上で、現在の10Xの事業フェーズは「極めて事業自体の不確実性が高い」と位置付けています。そのため「不確実性に強いチームを構築する」ことが未だに重大なイシューです。
今の姿
では、現在の不確実性の高い状態において組織の理想像はどういった姿でしょうか。自分のイメージは以下のようなものです。
- 10人で最も重要な20の問題を解く姿。
- 重大な方針の転換がトップダウンで可能な姿。
- 転換に対して反脆弱性を備え、機敏にアクションできる姿。
- 個人が創造性が並列でを発揮できる姿。
上記のような理想に加え、現実では10Xのような小さな会社は大きな決断に対してシビアなリスクコントロールが求められます。失敗すれば会社が潰れ、社会に大きな損失を与えます。不確実性の帰結に対して責任を取るのは創業者・経営者であり、トップマネジメントから事業を切り離すべきではない、と考えています。
突き詰めると、会社、いや、自分のキャパシティの狭さなのだと思います。
膨大に資金調達したりCFを生み出し、いろんな社員を雇用したり、丁寧なコミュニケーションに時間を使ったり、失敗に対する余裕を作れる起業家もいるでしょう。しかし僕はその選択をしません・できません。それが自分が「現時点で上位1%の経営者になれない要因」の大部分を占めるのではないかなと考えました。もちろん将来に向けて取り組むべきとも自覚していますし、結果で示していくものです。
スケール時の姿
将来、事業不確実性が抑えられ、スケールに事業イシューが移った場合は、「異なる組織」が必要になるかもしれない、というのは常に頭にあります。一般的にスケールフェーズで必要と言われる組織像は以下のような姿です。
- 100の問題をボトムアップで解く姿
- 100人が100の得意を発揮する姿
- 100人が1.1xされる仕組みがある姿
- スケール(低い不確実性)と次の新規事業(高い不確実性)が同居する姿
どれも今の「個々のパワーで、一点突破」といったイメージとは真逆の姿に思えます。
10Xにとって、自分にとっては現在の尖った組織から、良さを残したまま次のフェーズへ移行するというのは将来の大きなイシューでしょう。それを可能にするのは「リソースの余裕を生み出せるCEOの実力 = 大幅な事業推進」以外にないとも思います。順序を間違えないで取り組んで生きたいと思います。
より組織を強くするために (Next Step)
今回のCEO評価から見えた内容に、今の自分や10Xの組織に必要な全てがあると思いました。
具体的には以下の3点を通じ、今の組織の特性を更に強化すること、そして組織がスケールできる準備を進めるアクションを進めます。これはCEOとしての個人のチャレンジであるとともに、組織全体のチャレンジでもあると思います。
- ミッションの意図・背景をより明示化して伝達する(ドキュメント化)
- 「inclusivityとは・そこにあるイシューは」を定義し、「自律」と両立させる状態を作ること(ドキュメント化と施策検討)
- CEO個人に足りない部分を補えるチームをつくること(採用活動)
この3点は「事業の推進を最大化すること」を最上位に置くために、自覚的に犠牲にしてきた側面もあると思います。ただ現時点から明確に「重要度の高いイシュー」と捉え、ブレークダウンし、優先度を検討してアクションしていきます。
今後も半年に1回、定期的に実施していき、このアクションの結果を公開できるようにしていきます。
また、組織状態をチェックするにはより踏み込んだ網羅的なサーベイを行い、時系列での変化をチェックすべきという反省も得られました。この点についてはDCMがスタートアップ起業家向けにカスタマイズしたサーベイを今後定期的(半期に1回)に実施することに即座に決定しました。こちらについても実施後に結果を公開していきたいと考えています。